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20年間回り続ける“肉屋の水車” 鹿児島「肉のハッピー」(3/3 ページ)

» 2016年08月15日 11時00分 公開
[金原みわITmedia]
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――そうなんですか……。

 「肉のハッピーを始めたのが31年前くらい。でもね、そのときに比べると売り上げがすごく減ってきてるんですよ。スーパーができて輸入ものが安くで売られたりね。あとは、お客さん達も年取っちゃって、亡くなったりしてね。今の世代は、肉をお祝いにしたり送ったりはしないんだよねぇ。この店も、子供が継ぐかどうかは分からないね」

――……。

 鬼塚さんはクールな表情でさらりと深刻な事情を言う。軽く質問してしまったことを若干後悔してしまった。

 「まあでもね、そんな中でも最近『豚みそ』はとても売れてるよ。テレビとかでも紹介されて、全国に送ったりしてるね。ご飯に合っておいしいおいしいって好評なんだよ。これがもっと広まればいいんだけどね」

買ってみそ 食べてみそ
かごしま黒豚みそ100gが148円とは破格である

 「あと、夢じゃないんだけどね、趣味でマラソンをしているんだけど。去年はむちゃして28kmのところで中断してしまったから、来年はフルマラソン42.195kmを絶対完走したいと思ってるんだよね」

――えぇえ、今70歳ですよね。すごい夢じゃないですか。

 「そうかな。それと夢じゃないんだけどね、今新しく、展示会に出す作品を作ってるの。もう大体でき上がってるんだけどね。見てみますか?」

――夢で溢れているじゃないですか! 見たいです。

 「これこれ。西郷隆盛が立っていて、後ろで小便小僧がおしっこを出して水車がまわして、その動力でマラソンランナーが走る。大体90パーセントできてるんだけど、水がたくさんたまるようにしたり、ひもが引っ掛からないように後少し調整したりしないとダメかな」

小便小僧の背中からはホースがまるで尻尾のように生えている
美しい桜島の噴火をイメージした背景

 「西郷隆盛やマラソンランナーと『小便小僧』との組み合わせが、イメージ的にどうかなぁと少し心配だけどね」

――大丈夫ですよ。そのまま突っ走ってください。優勝も狙えますよ。

 「優勝はしないよ。老人会主催のこういうのは、年齢が高い人順に賞が出るからさ」

 あくまでもクールな表情で、鬼塚さんはそう言うのだった。

愛される肉のハッピー

――そういえば、どうして「肉のハッピー」って名前なんですか?

 「うーん、なんだかハッピーって名前は楽しそうと思ってね」

 クールに鬼塚さんは言う。

 「20年やってる水車は、途中で何度もやめようとも思ったんだけど、ちょっと回さないだけで『今日はまだ回さないの?』とか『止まってるよ』って言われるから、やめられないんだよね。みんな結構、楽しんでるみたい」

――うん、ずっと見ていたくなる。多分近所にあったら毎日様子見に来ちゃいそう。人を楽しませてくれる、すごい肉屋ですよ。

 「すごくないよ、恥ずかしいよ」

 そう言って鬼塚さんは水車を見た。表情はクールなままだったが、どこかうれしそうでもある。その間も水車はごごごごごとけたたましい音を奏で続けている。

 肉屋を始めた当初はまさかこんなことになるとは思っていなかっただろうが、結果的に人々を楽しませている「肉のハッピー」。

 20年間もここで回り続けた水車は、今後どう進化していくのか。きっとこの人はその身がある限りずっと走り続けるだろうし、人々に愛される水車も回り続けるのだろう。

肉のハッピー

鹿児島県鹿児島市三和町7-6

099-257-0416


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