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映像技術の底力を見せつけたパナソニックとソニー、麻倉怜士のIFAリポート2016(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/4 ページ)

» 2016年10月03日 20時24分 公開
[天野透ITmedia]

麻倉氏:パナソニックは第1世代の時からこういった問題にしっかり手を入れていました。LGディスプレイのOLEDはまだまだクセのあるデバイスで、これをどう使いこなすかというところがポイントなのですが、パナソニックはこの点でノウハウを持っています。IFAで初めてOLEDを出したのは2014年のことですが、この時は制御に苦心したかいがあり、LGよりも画質が良く、LGの技術者が勉強のために大挙して押し寄せたということもありましたね。

 これはパナソニックが蓄積し続けてきた画作りの力で、今回もやはり「自発光のプラズマをやっていたパナソニックだから、暗部階調の重要性はとても良く知っている。なのでウチのOLEDはどことも異なる高品質な画が出るよ」というメッセージを強く訴えていました。確かに1990年代後半から2000年代初頭のプラズマテレビは、お世辞にもいい画とはいえませんでしたね。そもそもの解像度がSDや720pだったこともさることながら、やはり暗部階調がとても問題でした。

 プラズマは基本的に放電によって光をONかOFFにするという0か1の世界で、それをデジタルでどう制御し、階調を作るかが画作りの基本です。また、予備発光の“種火”が大きければ放電による発光効率も上がるのですが、これは常に光が出ている状態となって“黒が浮く”という問題をはらんでいます。逆に種火を弱くするとそもそも放電しないため、種火は常にパワーを上げつつも黒浮きを抑えるという、相反する要素を両立する必要がありました。

 こういった山積みの問題を1つずつ解決していったのがパナソニックとパイオニアのテレビ開発で、こうした過去の研究資産や人的リソースが、OLEDの時代になってついに日の目を見たのです。実は発表資料的には昨年とあまり変わっておらず、提示される図もだいたい同じものでしたが、先述の通り出てくるパフォーマンスは天と地の差がありました。

 現時点ではおそらく、LGの画作りレベルよりもパナソニックははるかに上を行っていますね。ですがLGのOLED連合としては、自陣営を盛り上げるという意味でパナソニックのパフォーマンスは歓迎することなのです。

パナソニックの暗部階調がほかのOLEDよりも豊かなことを示すスライド。暗部における画作りのノウハウは、プラズマ時代からの努力の結果と麻倉氏は指摘する

――長年リーディングカンパニーであり続けたのは伊達ではないという事ですね。技術はもちろんのことながら、それを使いこなす感性がパナソニックのOLEDには宿っているようです

麻倉氏:プレスカンファレンスでは「商品発表ではなく技術展示。モノが出てくるのはこの冬」というアナウンスがありました。おそらくCESで新製品発表を行い、2017年になれば日本でもパナソニックOLEDが見られるでしょう。

パネル制御、信号処理、そしてカラーチューニングといった要素について独自の技術とノウハウを持っているのがパナソニックの強みだ
麻倉氏が「笑ってしまうほど違う」と評した、新旧OLED比較。右は現行の「CZ950」、左は開発中の第2世代モデル、中央は業界標準のマスターモニターであるソニーの「BVM-X300」。画像は高感度の暗室撮影のために荒れているが、それでも右側の屋根などで明らかに暗部表現が出ているのが分かる。加えて第2世代モデルの方がX300の画に近いというのもポイント

麻倉氏:OLEDは機能性に関しても面白いですよ。テレビサイズで極めて高画質ということもさることながら、自由自在に曲げられたり、壁紙にできるほど薄いものができたりなど、高機能で多用途に耐えうる点もプレゼンされていました。LGのお膝元である韓国では、例えば仁川国際空港では天井に曲面サイネージが張り巡らされているなど、高機能性をB2Bサイネージで活用する例が増えています。

 OLEDの特長として“軽い”という点が挙げられますが、この特徴から例えば大型の持ち運びテレビなどが考えられます。インタビューで聞いた話ですが、これまでのあまり大きくないテレビは引っ越しが楽で、つまりテレビを買い替えた際にリビングルームにあった物を寝室へ持っていこうという使い方が良くありました。ところが現代の大画面液晶は重いため、そう簡単には持ち運べませんね。それがOLEDならば、自分がいる場所へテレビを持ち運ぶというスタイルを取ることができるのです。

 もう1つ面白かったのがキッチンでの採用例です。戸棚のガラスに仕込んでテレビとガラス戸の両方の機能を持たせたり、ワインセラーのガラス戸に仕込んで酒の情報を表示したり、あるいはダイニングの窓に仕込んで、料理やレシピの説明をシェフがしたりというデモ展示がありました。これも薄くて軽い自発光デバイスならではの使い方でしょう。

 パナソニックは住宅事業のパナホームも抱えているため、いかにして機能的なOLEDを家庭へ入れるかという実験が進められる環境にあります。同時にB2Bへの応用も力を入れており、こういったシチュエーションの中でどのような使い方ができるかという発想も考えやすいのです。

――棚のガラス戸や窓がそのままテレビモニターになれば、テレビの置き方が根本から変わりますね

麻倉氏:度々話している大画面の反オブジェ性を解決するために、巻き上げスクリーンにするという事も可能でしょう。パナソニックにとってのOLEDは、これまでテレビに関して困っていた事を解決する夢の技術なのです。

 パナソニックは2018年に、松下電器産業時代から数えて創業100年を迎えます。さらに2020年にはオリンピックも控えており、公式スポンサーとしていよいよ本格的にOLEDを立ち上げることが期待されます。ソニーとの協業のジャパンOLEDでは印刷方式をやっているため、あるいはひょっとすると、大型も国産パネル生産などという可能性もあるでしょうか。

――うーん、LGパネルが安定している現状であえて供給元を切り替えるには、ジャパンOLEDで相当な技術革新が求められそうですが……

麻倉氏:それほど夢想的な話でもないですよ。というのも、パナソニックは2013年の段階で既に第6世代のマザーガラスを55型6枚取りで生産することに成功しています。加えて最近の日本メーカーには、不況の影響で一度手放した事業をもう一度育て直すという流れが見られます。そういう意味で一度諦めたパナソニックの印刷型OLEDに、もう一度日が当たるかと期待したいところです。

OLEDの機能性を追求する展示エリア。一見すると何の変哲もない戸棚だが……
ガラス戸にはOLEDパネルが仕込まれており、このように映像を映すことができる。大きな窓をテレビ化したり、あるいは最新旅客機であるボーイング787で実装されているような電子シェードに用いたりと、近未来のモニタ用途を考えさせられるコンセプト展示だ

――映像分野はOLEDでパナソニックがリードをしているようですが、他社の動向はどうでしょうか?

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