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ソニーがハイエンド商品を続々投入できた理由、そして欧州のオシャレな有機ELテレビ事情――麻倉怜士のIFAリポート2016(後編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(5/6 ページ)

» 2016年10月12日 11時32分 公開
[天野透ITmedia]

欧州3ブランドの特徴的なOLED

麻倉氏:もう1つOLEDの特筆点は、MetzとLoewe、フィリップスというヨーロッパの3ブランドです。白黒ブラウン管の時代からヨーロッパで信頼されている地場のブランドがOLED採用というのはかなり大きなインパクトとなっています。このうちドイツのMetzとLoeweはデザインと技術力で高いブランドイメージを誇るメーカーで、特にLoeweに関しては5年ほど前にスマートテレビが注目された時、親画面と子画面に分けて映像と情報を個別に表示したり、フレームの着せ替えやカスタマイズといった個別化をしたりしており、私も注目していました。

中国スカイワース(写真=上)と同社グループのドイツブランドであるMetzのOLEDテレビ(写真=下)。LGやパナソニックはもちろん、中国系メーカーやトルコのVESTELなどでも採用されているOLEDは高級テレビの圧倒的多数派であり、新世代テレビデバイスにおいて確固たる地位を確立している

麻倉氏:昨年はブースが見当たらなかったのですが、今年は25番ホールで大きなブースを構えており、デザインコンシャスで高機能かつOLEDを採用したテレビを展示していました。落ち着いた空間の中でデザイン美と機能美を主張する存在感のあるテレビでしたね。担当者に聴いてみたところ「パネルはLG」と隠しませんでしたが「機能や画作りは自社の自信作」と言っていました。地元ヨーロッパの人にとってこの流れはOLEDに対する信頼感を上げるものでしょう。

麻倉氏が注目するドイツブランドのLOEWEが作ったOLEDテレビ。高いデザイン性と独自の絵作りに対して担当者は胸を張っており、同時に高級機デバイスとしてのOLEDに信頼を寄せていた

麻倉氏:フィリップスは自社でのテレビ事業をやっておらず、台湾企業と合弁のTPvisionでヨーロッパと南米のブランド展開をしています。ですがIFAのカンファレンスでは毎年必ず出てきており、TPvision作フィリップスブランドのテレビが大きく取り上げられます。新会社になってもフィリップスのアイデンティティを崩さず、テレビ背面にカラーLEDを配置し、映像に応じて光るアンビライトで従来のコンセプトをキープしているのです。

――アンビライトというと背面にライトを配置して、映像に応じた光を出すオシャレテレビですよね。そこに宿るフィリップスのアイデンティティとはどんな部分でしょうか

麻倉氏:われわれ日本の凡人的想像力ではなかなか理解し難い発想ですが、基本的にこれは壁掛けテレビなんです。ヨーロッパの部屋は基本的に暗く、照明が白熱灯で色温度が低く、そして間接照明ということで、光の演出にこだわる文化があります。そこにおいてフィリップスは元々ランプの専業メーカーから出発したため、光の演出には一家言持っているのです。

 光の演出という点ではアンビライトの前に「Hue」があります。RGBの組み合わせでさまざまな色を作ることができるこのHueがオープンライセンス化されることで、さまざまなアイデアが出る環境が近年整えられ、スマホやセンサーと連携して様々な照明空間をつくれるようになりました。例えばバスルーム(トイレ)の演出ではスイッチで一斉に点灯する従来の照明と異なり、Hueは近づくとグラデーション的に「じわっと明るくなる」というソフトな点灯動作が可能です。さらにHueとアンビライトを連携させて、部屋中全体をアンビライト化することができます。つまりテレビで青空が映るとすると、アンビライトでテレビ背面を青くしたと同時にHueで部屋全体が青くなるのです。

フィリップスが取り組み続けているデザインテレビ「アンビライト」が、今年はついにOLEDを搭載してきたほか、デザイン照明「Hue」との組み合わせで部屋をまるごとアンビライト化するという面白い機能のデモも展示されていた

麻倉氏:このようにアンビライトはここ数年で着実な進化を遂げており、従来は単にLEDライトを配置して色だけを背面に映していたものが、昨年の段階でLEDプロジェクターを背面に搭載し、映像のカタチがフレームを越えて大きくなっていたのですが、今年はテレビ自体がOLEDへ進化しました。パネルはLGディスプレイの65インチOLEDです。実はフィリップスとLGには深い関係があり、というのも、もともとLGディスプレイはフィリップスとの合弁会社「LGフィリップス」としてスタートしていました。現在は資本関係はありませんが、フィリップスはLGディスプレイの創立と運営に深く関わったため、今でもLGパネルに愛着があるそうです。OLEDにより色が見栄し、自発光でコントラスト感が良くなったことに加えて、アンビライトで空間を演出するというのがフィリップスらしいですね。加えて今年は98インチ液晶の8Kアンビライトも登場しました。パネルの出処はLGかBOEか分かりませんでしたが、いずれにしてもこの特大サイズでのアンビライト化は「フィリップスのあらゆるテレビはアンビライトを抱く」という大きな仕掛けといえるでしょう。

アンビライトのもう1つのトピックは8K化の達成。「自社ブランドのテレビは全てアンビライトへ」というフィリップスの方針を強く印象づける展示だ

――フィリップスのアンビライトはオシャレですよね。単なる情報表示デバイスというところにとどまらず、テレビをインテリアとして機能させるには何が必要かと考えられていると思います。さらにOLED化で画質が良くなるのですから、高級テレビとしてのポテンシャルはかなり高いといえます。

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