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CHORD最強のポータブルDAC「Hugo 2」開発秘話CES 2017(1/3 ページ)

» 2017年01月12日 06時00分 公開
[山本敦ITmedia]

 「CES 2017」で英国のハイエンドオーディオブランド、CHORD Electronicsが約3年ぶりのアップデートを遂げたポータブルDAC「Hugo」の新世代モデル「Hugo 2」を発表した。またポケットサイズのポタアン「Mojo」の外付けモジュール「Poly」、そして超弩級CDトランスポート「Blu MkII」など盛りだくさんの内容を展示していた。

CHORD最新のDAC内蔵ポータブルヘッドフォンアンプ「Hugo 2」

 同社はハイエンドオーディオの出展が多く集まるベネチアン・ホテルのスイートルームにブースを構え、新製品の試聴デモンストレーションを精力的に行っていた。会場で同社CEOのジョン・フランクス氏、ならびに同社初のDAコンバーター「DAC64」の時代からCHORDのデジタル関連のアルゴリズム開発に携わるエンジニア、ロバート・ワッツ氏に会い、新製品の特徴を解説してもらった。

はじめに:ロバート・ワッツとは何者か

 2014年に発売された「Hugo」は、CHORD初のハイレゾ対応のDAコンバーターを搭載するヘッドフォンアンプだ。同社のDAコンバーター製品は、汎用の半導体チップを使わずに、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)とよばれるプロセッサーへ、独自にカスタマイズしたアルゴリズムをプログラミングすることで高品位なD/A変換を実現するところに特徴がある。

エンジニアのロバート・ワッツ氏

 プログラマブルなFPGAのメリットはどこにあるのか? とても卑近な例で汎用のICチップとの違いを説明してみよう。例えばある晩、妻の手料理の中に、高級デパートで買ってきた評判の美味しい餃子(DACのICチップ)があったとしてもディナー(いい音)は素晴らしいものになるだろう。新鮮な有機野菜と国産の上等な挽肉を合わせて餡を練り、手作りの皮に包んで丁寧に焼き上げた餃子(FPGAをベースにカスタマイズされたDAコンバージョン回路)があればもっと感動的なディナー(すごくいい音)になるかもしれない。ロバート・ワッツ氏は「すごくいい音」を実現するためなら、“餃子の味付けに使う塩”にまでとことんこだわるエンジニアである。今回はその探求がついに「塩の1粒ずつ」を吟味するレベルに辿り着いてしまったのだ。その成果が今回発表された製品に盛り込まれている。

中味も外味もデザインを一新した「Hugo 2」

 CHORDは本格的なフルサイズのHi-Fiコンポーネントから、お弁当箱サイズの「Chordette」シリーズまで、デジタルオーディオの革新を幅広く探求してきたブランドだ。そのCHORDが2014年に発売した「Hugo」には、CHORDの高品位なDAコンバージョンの技術やBluetooth再生まで統合した幅広いオーディオ体験がぎっしりと詰まっている。発売当時はポタアンとしては破格の24万円というプライスに度肝を抜かれたものだが、発売後はツウも認めるリファレンスとしてロングセラーを続けている。この成果こそが、本機がホンモノであることの証明だ。

 そのHugoが第2世代への進化を遂げたと聞き、心がざわめく方も少なくないだろう。まずはアップデートの概要を紹介しよう。

豊富な入出力端子を搭載

 まず外見が変わっている。「Mojo」みたいに光る球が増えている。これは新しいHugoの動作ステータスを知らせるインジケーターで、バッテリー/再生コンテンツのファイル形式と周波数/ソース入力、そして新機能となるデジタルフィルターの選択状態を表している。

 側面を見ると、データ用とバッテリー用のmicroUSBが搭載されている。これもまた、Mojoみたいだ。今回のCESでMojoにプレーヤー機能を後付けする「Poly」という外部モジュールが発表された。本機については後述するが、ここでハイライトしておきたいことは、Hugo 2もハードウェア的な機能拡張ができるようになったことだ。「新しいパーツと合体して進化するDAC」。何とも男子心をくすぐるじゃないか。

 中味のオーディオ再生のスペックも飛躍を遂げている。その内容に深く切り込む前に、ワッツ氏がどうしてHugo 2を作ろうと思ったのか。開発者の声を聞いてみよう。

 「Hugoを発売したあとも、どうにかこれをもっとすごいものに仕上げたいという思いがずっとありました。2015年の秋にCHORD ElectronicsのフラグシップDAコンバーターとなる『DAVE』を発表しました。このDAVEの開発によって得たノウハウをHugoにすべて取り込みたいと考えて、昨年のはじめから開発をスタートさせました」(ワッツ氏)

USB端子を2系統搭載したのは将来の拡張性を狙ったものだ

 デジタルのオーディオ信号をアナログ信号に変化する際、より高品位な音を再現するためにはオーディオ信号の波形を緻密に、かつ正確に描き込む必要があるとワッツ氏は語っている。その緻密さを突き詰めて行くほど、オーディオ機器を使って再生する音楽が生の演奏に近づいていく。

 「デジタルの領域で原音を完璧に復元するためにはインフィナイト(無限)のタップ数(フィルターの処理精度)が必要です。現実的にはそのような高精度なフィルターをつくることは難しいといわれていますが、私は最新鋭の高精度なFPGAを使って、独自のアルゴリズムをブラッシュアップしながら少ないタップ数でも限りなく原音再生に近いサウンドを実現する技術を確立してきました」(ワッツ氏)

 Hugoには2万6368タップのフィルターと、カスタムデザインされた16コア/208MHzのDSPプロセッサーが内蔵されている。ワッツ氏はこれが一般的な高級品といわれているDACチップのおよそ100倍にあたるスペックであると説明する。そして、Hugo 2では約4万9152のタップ数を実現し、ワッツ氏独自設計による周波数16fsの「WTA」(Watts Transient Aligned)フィルターを、45コア/208MHzの強力なDSPで動かしている。さらにもう1つ、周波数256fsのWTAフィルターを2層構造で乗せたことで、「Hugoよりもノイズ処理精度が高まり、クリアで正確な音楽再生を実現しています。音の立ち上がり・立ち下がりが驚くほどにシャープになっていることを誰もが実感できるはずと思います」(ワッツ氏)

 Hugo 2はフィルターを掛け合わせることで、4種類の効果をユーザーが自由に切り替えながらリスニング体験をカスタマイズできるようになった。ワッツ氏は「DAVEはCHORDのフラグシップだけれど、聴く人によってはその透明で見通しの良いサウンドよりもMojoの暖かみのあるサウンドが好みという声が返ってくることがありました。Hugo 2では音源やヘッドホンなどのテイストに合わせて組み合わせを自由に選べるようにしたいと考えました」と機能の持つ意味を述べている。

 デジタル入力はUSB経由でDSD512(22.6MHz)、リニアPCM 768kHz/32bitをサポート。同軸/光端子も備え、aptX対応のBluetooth再生機能も備えた。オーディオ出力は6.3mm/3.5mmのヘッドフォン出力と、アナログRCA出力という構成。本体内蔵のバッテリーで連続7時間の音楽再生が可能だ。用途に合わせて内蔵バッテリーの充電スピードをファーストとスローの2種類から選べる。

 Bluetooth再生はアンテナの感度を高めて、Hugoではソース機器から約1〜2メートル前後の距離を推奨していたが、これが10m近くまで伸びたそうだ。

Bluetooth接続のアンテナも感度を高くした

 参考までに、本国イギリスでの販売価格は1800ポンド。2017年の前半に発売を予定しており、シルバーとブラックの2色がラインアップする。

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