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「toio」をきっかけにソニーも変わる? 体感型おもちゃが示す本当の価値(2/3 ページ)

» 2017年06月21日 06時00分 公開
[山本敦ITmedia]

 田中氏は、コンセプトの立案からずっと練り上げてきた研究開発の成果がtoioに詰まっていると振り返る。田中氏に「toioに詰め込まれたソニーらしい技術は何か」と尋ねたところ、「絶対位置センサー」以外にも、ロボットである「toioキューブ」の作り込みの技術、独自のリングコントローラーによる制御からバックグラウンドで走らせているソフトウェアまで、全てに及んでいると答えた。「通常のロボット開発は技術が先行して、そこからアプリケーション(使い方)を考えるアプローチが多いと思います。toioの場合はその手法が逆転しているところがとてもユニークで、開発チーム一同で遊び方のイメージを先に固めてから、そのために必要な技術を作ってきました」(田中氏)

リングコントローラーはスイッチをスライドさせたり、ボタンをクリックしてキューブを操作する。加速度センサーも内蔵されている

 toioの基幹技術の中でとりわけ重要な「️絶対位置センサー」の役割を、開発に携わった田中氏に改めて聞いた。「ロボットを動かす際にはアクションを起こすための実行位置を決めなければなりません。いかに単純なプログラム処理であっても座標把握は非常に大事で、正確な位置と時間のタイミングを基準として、そこに遊びのルールを加えるとゲームがデザインできます。これをコンピューターグラフィクスの画面の中ではなく、リアルな空間の中で実現するために絶対位置センサーがあります」

 2つのキューブはコンソールと常時Bluetoothでつながりながら、絶対位置センサーで読み取った座標をコンソールに伝える。コンソールはカートリッジに収録されているゲームコンテンツのプログラムに従ってアクションの指示を飛ばし、時にリングコントローラーから入力された操作コマンドをキューブに同期する仕組みだ。元は天井など、プレーヤーの頭の上あたりにカメラを設置してキューブから発信される赤外線LEDを読み取って位置を読み込むというアイデアもあったが、この仕組みでは例えばプレーヤーが手や身体で赤外線を覆い隠してしまうと動作がストップしてしまう。子供のためのおもちゃなので、スムーズな操作ができないとあっというまに飽きられてしまう。そう考えた田中氏は、より精度の高い️絶対位置センサーを新たに開発する方を選択したのだ。

遊んでみて分かった体感型おもちゃの本当の価値

 長年に渡ってロボットの開発に携わってきた田中氏にとっても、toioの開発から多くの経験を得たという。「toioの開発はソニーが提案する次世代のエンターテインメントを形にしようという大きな試みからスタートして、徐々に“おもちゃ”という方向に定まっていきました。開発に携わったメンバーと一緒に、ソニーがソフト、ハード、エンターテインメントの分野で培ってきた資産をすべて集めて、自分たちがワクワクするものを作ってみたいという計画が徐々に熱を帯びてきました」。田中氏はさらに開発段階での出来事を振り返る。

ソニーが開発したtoio専用のゲームを多数収録する「toio COLLECTION」。キューブ本体に装着できるLEGOブロックとのコラボも展開される

 「toioのほかにも電気で動く色々なものを試作しましたが、その中で『子供たちが触って楽しめるもの』に絞り込んでいった結果、toioの原型に辿り着きました。その試作機をモニターの子供たちに遊んでもらったらとても好評だったので、私たちもこれは行けそうだという手応えをつかみました。普段、ロボットの要素技術の研究に没頭していると、お客様の姿を見る機会は少ないのですが、今回はユーザーである子供たちや親御様からの良い反応を目の当たりにできたことで気持ちが高ぶりました」(田中氏)

 toioはキューブの天面にある凹凸にLEGOブロックをはめ込んでキャラクターを作ったり、両面テープでお手製の紙工作を装着したり、ただコップを被せたりと何でもありの体験型の遊びをとり入れたおもちゃだ。キューブを小型化した理由は、子供たちが自由な発想を生かしたハンドメイドの工作と親和性を高めるためだったと田中氏は語る。「キューブは車にも動物にもなれます。だから本体そのもののキャラクター性は極力なくして、その上に自由な表現を加えられるようにしました」

ユーフラテスと共同開発したゲーム「ゲズンロイド」では紙工作と一緒にtoioが遊べる

 自分が組み立てたおもちゃとロボットの技術が組み合わさって動き出すと、田中氏たちの狙い通り、toioを遊ぶ子供たちの目が輝き始めた。それだけでなく、子供の遊ぶ姿を見守っていた親たちの身の入り方も変わっていったそうだ。キューブの天面の凹凸は、今回toioのデザイナーが独自に形状を考えて設計したものだが、LEGOブロックをパチッとはめ込んで、キューブの上にLEGOブロックで作った車や飛行機などが乗せられる。

キューブの天面にある凹凸にLEGOブロックをはめこむ

 筆者も今回のインタビューの際、LEGOの人型のキャラクターを乗せたキューブでロボット相撲のゲームを体験させてもらって、コントローラーのボタンを押して“必殺技”を繰り出して、対戦相手のロボットを倒した時には思わず拳を握りしめた。他のゲームがそうであるように、toioは人が遊んでいる姿を見るより、自分で動かして体感してみた方が断然楽しいし、その真価が伝わってくる。

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