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着衣型ウェアラブルデバイスの世界標準を目指す!――老舗繊維メーカーの新たな挑戦(2/3 ページ)

» 2017年07月12日 13時15分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

「元々、導電性のある繊維というのはチタンなど他の素材も含めて、この世にはたくさん存在するので、それ自体は珍しいものではありません。ただ、銀メッキ繊維というのはその中では非常に珍しく、実は世界に3社しか作れるメーカーが存在しません。日本においてはわれわれ1社のみ、その他、アメリカとドイツに各1社ずつ。製造方法に特許が取られているようなものではなく、職人たちのノウハウが伝承されているような世界で、それらの中枢の技術を知らないと、この銀メッキ繊維は作ることができません。その中でもわれわれの銀メッキ繊維の質は特に高く、導電性能が高かったと考えられます」(三寺氏)

質の高さに加え、導電性能が高かった

 そこで同社はアパレル&繊維中心のビジネスモデルから、ウェアラブルのようなプロダクトやサービス中心のビジネスモデルへと大転換した。現在ではIoT関連メーカーとして自社ブランドのウェアだけでなく、いわゆるデジタルの領域であるトランスミッターやアプリまで自社開発している。

 とはいえ、繊維メーカーであることは変わらないミツフジが、なぜそこまで力を入れるようになったのか。素人考えでは“餅は餅屋”――トランスミッターやアプリはそれぞれ専門のメーカーに任せた方が良さそうにも感じる。

「大手メーカーに銀メッキ繊維を供給しながら、少しでも素材の質を上げて市場のニーズに応えたいとヒアリングをしていたとき、どうやら各メーカーがそれぞれ高い技術を持ちながらも、なかなかいい製品が生まれない、市場が盛り上がらない一番の要因が、ウェアやトランスミッター、アプリをそれぞれ別会社が作っていて、それらがしっかりと融合していないからだということが判明しました。また、ウェアラブル市場は群雄割拠でさまざまな企業が参入していますが、実際のニーズにちゃんと応えてないプロダクトアウトなものがほとんど。われわれは銀メッキ繊維のオンリーワンの技術による世界一の優れた素材を持っているからこそ、ユーザーである大手メーカーからのニーズが一気に全て集まっているので、今ウェアラブル市場に何が必要かが手に取るように分かります。だから、すべてを自社でやることが、ウェアラブル市場で成功する最善の策だと気がつきました」(三寺氏)

 IoT製品を作る上で、多くのメーカーがぶつかるのが製造面に生じる境界線である。例えば、IoTのインテリアにチップを埋め込むとなると、インテリアメーカーでは過去やったことがないため、そういったものが作れない。ウェアラブルにおいても繊維は扱っているものの、ITに関しては知識が皆無で、やはり1社だけでは作ることができない。それを解決するためにミツフジでは、これまで社内にいなかったソフトウェア系の人材を大量に確保した。さらに絹織物の産地で知られる福島県川俣町に製造ラインを設けた工場を新設する計画だ。

工場を建設する予定の川俣西部工業団地

 そこで今後開発・製造されるであろう製品のコンセプトモデルが、今年の「CES 2017」などで展示された着衣型ウェアラブルデバイス、hamonである。hamonの開発コンセプトは、生体情報を取得するのに最適な銀メッキ導電性繊維を使い、市場ニーズにあったさまざまな形状と仕様のウェアラブルデバイスを作り出すこと。以下の4つの組み合わせで構成される。

hamonの構成要素

  • 導電性銀メッキ繊維「AGPOSS」:導電性繊維の中では最も優れた電気抵抗特性を持ちながら繊維としての風合いを保ち、洗濯耐久性のある糸。ウェアラブルセンサー、電極、電磁波シールド材、RFID アンテナなどに使用可能
導電性銀メッキ繊維「AGPOSS」

        +

  • シャツ型電極(ウェア):ベースには伸縮率が高く身体にフィットする繊維を使用。着心地がよく、高い精度のデータが取得できる電極一体型のシャツ
  • トランスミッター「hamon-transmitter」:シャツに着脱可能な小型トランスミッター。心電、RRI、加速度、ジャイロなどの情報をBluetoothでスマートフォンに飛ばす
トランスミッター「hamon-transmitter」
  • アプリ&クラウド:ニーズに合わせて、アプリはカスタマイズしたものを提供する
アプリのイメージ

 これにより、心電、心拍、筋電、呼吸、加速度、ジャイロ、温度、湿度などの生体周りの情報を、余計なアクセサリーなどを装着することなく、服を着るだけで測れるようになる。とはいえ、あくまでもこれは1つのイメージ。なぜなら、老人とスポーツ選手では取りたいデータも着用できる服も当然違う。つまり、想定しているサービスに対し、最適化された着衣型ウェアラブルデバイが必要だ。

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