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4K HDRプロジェクターの最前線! 「4K olmpAc」報告麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/5 ページ)

» 2017年08月05日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

麻倉氏:いろいろなコンテンツを使いましたが、最初に観たのはIMAGICAのリファレンス用映像「LUCORE」です。アストロのポータブル4K SSD非圧縮レコーダー「HR-7510」に、これとキューテック「QT4000」の2つの映像が入っていて、まずこれを再生しました。最初の映像のポイントは、白人、黄色人、黒人の女性が並ぶ肌の色、それと同時に映る窓の外の景色です。比較的暗い室内で3人の女性が並んでいて、空いている窓の外は明るい水辺が映っています。

 ここで室内外の明度差という、ダイナミックレンジに関するお決まりの問題が顔を出しますが、これがHDRならばどちらもしっかり出ます。並べてみると、各プロジェクターの描写はそうとう違いますね。特に青空と、その下に広がる緑や海の色は、機種ごとにクッキリと立ったり、バッタリと色が濃かったり、明るいけれど彩度感が浅かったりしています。そのほか黒人女性の黒みがより出る、あるいは黒いけれど階調感が出る、といったところが見られ、各社の絵作りに対する解釈の違いをはっきりと感じました。

 LUCOREはこれまで液晶でも何度も見ましたが、プロジェクターでは雰囲気が違います。テレビは室内外問わず輝度が高く、光の出方に力感があり、絵に勢いがあるという、光が出てくる直射の雰囲気がありました。一方プロジェクターはスクリーンの反射によるスクリーン効果というか、光の滞留、深み、グラデーションなどに、テクスチャーの違いを感じました。これが第一印象です。見ていて疲れないのも特徴です。エネルギーにあふれていて、はちきれんばかりの放射感が面で押し寄せてくるソニーの100インチテレビに対して、プロジェクターの反射型スクリーンにはうるおいがあります。これはギラギラせず繊細なグラデーションと色調を持っているWF302スクリーンの効果もあって、だからこそスクリーンのホームシアターは4K HDRに向くのです。

IMAGICAが制作したリファレンス映像「LUCORE」。人種の違う3人の女性が並ぶという、機材の表現力がストレートに問われる内容。シンプルであるためにごまかしが効かない

麻倉氏:引き続きリファレンスソフトのQT4000シリーズを流しました。2K用ソフト「QT1000」のコンセプトをそのまま踏襲したもので、今回の内容は台所用品を中心とした静物、ブルーのガラス玉ビーズ、ヴァイオリン、サックスなどの楽器、嵐山で撮影した和装の女性像といったものでした。直視型ディスプレイと比較すると、これもやはりしっとりとした質感で、液晶では画の構造、パワーを感じるのに対して、プロジェクターは品が良く格調高く端整で、コンテンツの特性、情報性を出していました。

 実はこの映像の収録には私も立ち会っていて、実視との比較ができました。京都のお茶屋さん「平野屋」での和装美人の撮影は、朝九頃の浅い角度の光を下からレフ板で受け、サイドからの光は自然光で出し、大きな影が出ないようにしています。モデルの若い女性は化粧のノリが薄いですが、肌がきれいなので滑らかさ、微粒子の細やかさがあり、S/Nを削ったのっぺりには決してなりません。それが今回、プロジェクターの緻密さと移ろいの細やかさですごく感じられました。それから反物の凹凸感の影の出方も。直視型は表面にゴツゴツ感が出る場合もありますが、プロジェクターはテクスチャーが細かいのに滑らかに推移しています。本物の質感が持つ自然感で、機種によってはよりクリアになり、模様の移ろい感なども出ていました。

 また、同じ女性が着る十二単の細かなグラデーションも見ものです。色としては緑と赤ですが、単純な赤ではなく朱と紅を重ねており、色の自然さ、パワー感、押し出し感といった要素を確認できます。以前観た直視型では本物以上にピカピカしていたのが、スクリーンでは私がその場に立ち会った時に感じた「上質」を感じました。本物は全然ギラついていないし、細かな光も品が良い。高い質感と落ち着いたしっとり感で、それがプロジェクターではよく出ました。私が思うに、マスモニのOLEDよりプロジェクターの方がより生っぽさが出ていたのではないでしょうか。

 台所用品のパートでは、クロムメッキのトースターやパンの切れ端、赤いケトル、果物といった、キッチン用具や静物が映し出されます。我々が普段目にする記憶色が並びますが、スタジオでは結構な強さの光が当たっていると感じました。この映像にはSDR版もありますが、こちらは結構アッサリとした調子です。対してHDR版は色を濃いめにもってきて、色のありありティーや臨場感を見せています。今回プロジェクターで見ると、HDRによる色の訴求力や意図性を感じられました。何度も言っていますが、液晶は生以上に先鋭になる傾向にあるのに対して、プロジェクターは我々の記憶色に近づいた自然な設えです。

――僕も客席から見せてもらいましたが、2Dなのに3Dの立体感を感じる不思議な感覚に陥りました。大げさではなく「これは本当に平面映像なのか?」と疑ったほどです

麻倉氏:丁寧に絵作りされたプロジェクターを高性能なスクリーンで見ると、生の情報を持ちながら、映像ならではのアーティスティックな雰囲気が加わり、超常的な立体感を感じます。今回の場合は発色と黒の階調感にこだわったような見え方が特徴で、スッキリ白が伸びている機種は色の厚さだけでなく質感が出ます。例えばケトルの丸みの立体感が白のノビや反射感で出てきて、そこに感じられる奥行き的な情報、直視型ではない自然さが、4KとHDRの組み合わせで引き出されます。

キューテック「QT-4000」はキッチン用品や楽器、和装の女性など、幅広い被写体を収録したリファレンス映像。キッチン用品や楽器などでは、光沢感や立体感の比較検討ができる
色彩やテクスチャーなどの表現力が問われる和装の女性。現場にも立ち会った麻倉氏は直射型デバイスと比較して、悪いギラつきのなさに由来する品の良さや生っぽさを指摘した

麻倉氏:UHD BD作品も色々研究しました。取り上げたのはビコムの定盤「宮古島」です。

――これに関しては昨年末のデジタルトップ102月のDEGブルーレイ大賞でそのコダワリを紹介しましたね

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