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4K HDRプロジェクターの最前線! 「4K olmpAc」報告麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/5 ページ)

» 2017年08月05日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

麻倉氏:UHD BDソフトとしては世界的にもめずらしい路線ですね。舞台の宮古島はビコムにとって手慣れたフィールドというのも、以前お話した通りです。

 作品を詳細に見ましょう。まず東平安名崎(ひがしへんなさき)灯台を望むシーンは、遠くに灯台、左右に海という、画質評価として解りやすい構図です。見どころとしては灯台までの距離感、草原のディテール感、左の紺のグラデーション、右の碧のグラデーションの海、雲の中のフンワリ感といったところです。ここでは景色への没入感に対する直視型と反射型の違いが、3機種のいずれもに感じられました。

 ポイントは精細感で、この場合は極めて重要です。同じ画素、HDRでも、モデルによって精細感は違います。これがバッチリと決まり、同時に白の階調感が入ると、眼前で見ているかのような凄まじい臨場感、情報性を感じます。さらに大スクリーンに投射することで、ソフトの情報星の多さが初めて分かるのです。大画面で緻密にHDRを上手くかけた時の画の力、現場感は、想像以上のものがあります。

――物量の力といいますか、強烈な説得力が大画面にはありますね

麻倉氏:遠景もさることながら、近景も目を見張るものがあります。砂浜に降りたシーンのディテールで、砂1粒にモデルごとの描写力の違いが見られました。あるものは若干フラット、あるものは立体感が凄まじく、砂粒単位の凹凸感が出ます。あるレベルで妥協をしていた2Kの「全体的な砂粒感」と違い、4Kの優れたプロジェクターの描写力は、砂の1粒に独立したコントラストと階調感と色が付いています。これは大げさではなく、サンゴでできた砂は赤あり、橙あり、白あり、グレーあり、茶色あり、などなど、砂粒によって色が違うのです。

 水に濡れると滑らかになり、水面に砂が引き寄せられたり、押し出されたりといった砂の動きで、プロジェクターの優れたの描写力が見られました。今回は60p作品をキチンと60pで観たため、動きの解像感、静止画だけではない動きのリアリティーもよく分かりました。

 伊良部大橋を望むショットは海が近いですが、この水がものすごく透明なんです。遠くからではブルーに見えますが、近くでは光が上から当たって、水のレンズを通したように見えます。浜にはヤシの切れ端のようなものが影を作りながら流れ着いており、水が引くと影と同時に動いていきます。こういった要素の動きの質感が、とんでもないリアリティーを伴っています。海と空のグラデーションは実に自然で、色の段差が明確なのも印象的です。あるがままを生成りで出すプロジェクターの描写力の魅力と言えますね。

 その後は長い長い伊良部大橋を渡るショットで、道がどこまでも直線的に伸びている感じがして、さらにその奥に空があるという図です。ここでは機種ごとの奥行き感の違いが見られるほか、路面のアスファルトや雲の浮き上がり方といったところに個性を見てとれます。何度も言及していますが、スクリーンで見る景色の自然さは特筆に値します。

ビコムの高画質4K風景映像「宮古島 癒しのビーチ」。精細なディテールや豊かな色彩表現などで、視聴者へ驚異的に自然な現場の感覚を届ける

麻倉氏:映画も色々見ましたが、「ハドソン川の奇跡」が分析しやすいでしょう。典型的な4K撮影で、画調はビデオ的です。余談ですが、最もビデオ的な映画はイラク帰還兵を描いた4K 60P作品「ビリー・リー」で、その次がハドソン川です。

 HDRの良さが凄く出ているのは、マンハッタンの街並みです。特に煌めく看板のネオンサインや街頭LEDモニターがトバないこと、これは極めて重要です。タイムズスクエアは実視でもトぶ時があり、それくらい煌々としています。SDRでは絶対にトびますね。なぜこれが重要かというと、街頭モニターにUSエアのニュースが流れているからなんです。ニュース映像に囲まれた中でサリー機長が悩んでいるという象徴的シーンがあり、この時機長はセリフでは何も語りません。高輝度部分がトんでしまうと作品の重要な情報が表示されないのです。

――先の大統領選では、この場所で米abcの開票特番が放送され、周囲の街頭モニターにはトランプ候補とヒラリー候補の開票状況がリアルタイムで映っていました。“そういう場所”ということがちゃんと表現できるか否かは作品の印象を大きく変える可能性があります

麻倉氏:そうですね。飛行機の反射もこれに通じるところがあり、そういった景色の中の情報性がよく出ているのがHDRの特長ですね。やはり映画こそスクリーン。現代的な画調を持った作品をスクリーンで観るというのは、直視型で観るのとは違う体験です。4Kのハイクリアな映像、HDRの豊かな情報性。これらがプロジェクターで見ることで感じられます。機種ごとの違いもさることながら、コンテンツが持つ情報性、情緒性が、プロジェクターの世界では非常に上手く表現されています。

 そのほかでは、パラマウントの8K撮影作品「マリアンヌ」がとてもフィルムらしい粒子感を出していて印象的でした。グレーンで作っているわけではないですが、デジタル臭さや誇張がなくアナログ的で、包み込むような温かい粒子感と繊細さと階調感が見られます。特に人肌の描写が抜群に良く、例えばブラッド・ピットの肌の盛り上がり感や肌色のグラデーションなどは、フィルムでも4Kビデオでもこうはいきません。8Kが持っている細やかさや粒状感を映画に生かすことで、新しい映画の表現を切り拓く、独自の境地を得たのです。

――これから8K撮影の映画は間違いなく増えていくでしょうから楽しみですね

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