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新規格「HDR10+」がコンシューマーにもたらすもの――パナソニック、小塚氏に聞く(1/2 ページ)

» 2017年09月08日 11時57分 公開
[山本敦ITmedia]

 20世紀フォックスとパナソニック、サムスンの3社が、HDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)のエコシステムをさらに発展させることを目的に、中低輝度のテレビでもハリウッドのスタジオ、そして一般のユーザーが納得できるHDR体験を味わえる新しい技術規格「HDR10+」を発表した。規格の名前はまだ仮決定のものだが、今後3社は共同でHDR10+のライセンス会社となる「HDR10+ LLC」を設立。規格の正式名称を決めて、詳細な技術ライセンスプログラムの公開、本格的な技術のデモンストレーションを2018年1月に開催されるInternational CESで行う予定だ。

 今回HDR10+の立ち上げに関わったパナソニックの小塚雅之氏にドイツ、ベルリンで開催された「IFA2017」の会場で話を聞く機会を得た。HDR10+とはどのような技術なのか。また新しい規格が目指すものは何なのだろうか。

パナソニック アプライアンス社技術本部 イノベーティブ・エンターテインメントDC メディアアライアンス室の小塚雅之室長

HDR10を拡張して作られたHDR10+

 まずHDR10+がどんな技術なのか概略をまとめておこう。従来のHDR10では1本のコンテンツ単位で静的トーンマッピングによって輝度や色、コントラストのメタデータ情報を扱っていた。HDR10+では高画質化に必要なメタデータ情報を、シーンやフレーム単位で自動的に最適化して持せたせる技術拡張を図っている。

パナソニックがIFAで開催したプレンカンファレンスでもHDR10+をめぐるパナソニックの戦略が語られた

 動的トーンマッピングにより生成された“ダイナミック・メタデータ”と呼ばれる情報を、テレビやBDレコーダー/プレーヤー、STBなどの機器が読み込むことで、映像制作者の意図をシーンやフレーム単位でより忠実に再現できることが特徴だ。テレビやディスプレイ機器としては、独自にシーンやフレーム単位でHDR映像を解析する高度な映像エンジンを組み込むことなく、より実装が容易なダイナミク・メタデータを読み込んで再現するアルゴリズムを追加するだけで、一定品質以上のHDR映像を再現できるようになることが大きなメリットとなる。

 パナソニックら3社は、自社のテレビなどの映像機器にもHDR10+機能を実装するとともに、スタジオにダイナミック・メタデータの製作ツールを提供してコンテンツ側からの技術革新も促していく。共同で設立するライセンス会社では公式認証テストプログラムを策定し、テレビの性能を評価、確認、ロゴの許諾までを行う仕組みを全体で整える。

パナソニックのプレスカンファレンスには20世紀フォックスのDanny Kaye氏も登壇。HDR10+の普及に向けた考え方を述べた

 小塚氏はHDR10+がライセンス費用のかからないオープンな規格であると説いている。参加企業には年会費を支払うことだけを義務付けている。小塚氏は「HDR10+の技術によって、HDR10の高画質を可能な限り保ちながら、対応テレビを広げていくことが規格を発表した真意」であると強調した。

HDR10+対応の機器を新たに買いそろえなくても大丈夫

 現在までBDAやUHDアライアンスなどで様々な議論が交わされてきた結果、HDR10が業界標準のHDR技術になって、多くのテレビやプレーヤー機器、最近ではスマートフォンなどにも広がりつつある。一方ではHDR10の正式なロゴがなく、既に業界標準的な技術となってしまったために、その技術を積極的にプロモーションする組織が存在していない。結果として「HDRの価値が正しくユーザーに伝わらず、HDRテレビの売れ行きが思いのほか伸び悩むといった歪みが生まれている」と小塚氏は指摘。HDR10+が生まれるきっかけとなった現状を説明する。

 2015年初にはパナソニックも参加するUHD Allianceが発足して、4K/HDR対応の高品質なディスプレイ製品を対象とするロゴプログラム「ULTRA HD プレミアム」も始まったが、その規格の敷居が非常に高めに設定されていたたので、ロゴを取得できるテレビの数が思うほど伸びなかった。HDRを軸としたコンテンツビジネスに弾みをつけたいハリウッドを中心とするコンテンツ側から熱い期待を受けて、HDR10をベースに強化された技術規格がHDR10+なのである。

パナソニックはIFAのブースで有機ELテレビによるHDR10+の映像を紹介

 HDR10+の技術を固めていく段階で、NetflixやアマゾンなどHDR10での映像配信を提供するサービスが配信システムを変えずに導入できるよう、HDR10+はHDR10との後方互換性も確保している。小塚氏は既存のHDR10も十分に高画質であることもインタビューの中で繰り返し述べているが、一方ではやはり画面輝度が400nitsから500nits前後の、ミドルレンジクラスのテレビではダイナミック・メタデータを扱うことによって画質の差がはっきりと出てくるようだ。パナソニックとサムスンは今年のIFAのブースで、各社のミドルレンジクラスのテレビにHDR10+の技術を組み込んだプロトタイプを展示して、既存のHDR10の映像と画質を比較して見せるデモを行っていた。その映像には目に見えるほどの明るさと精悍さの違いが現れていると感じた。

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