8Kテレビは本当に普及するのか?――GPC&CE Chinaレポート(2):本田雅一のTV Style(2/2 ページ)
スマートフォンやSVODの普及で大きく変わりつつあるテレビ市場。4KやHDRはどうなる? 8Kテレビは中国が中心に? メッセ・ベルリン主催の「Global Press Conference」(GPC)で披露されたgfkやiHSの調査データを元に、AV評論家・本田雅一氏が市場を分析する。
いつでもどこでも楽しめるデバイスの普及
同様に18歳以上全員と18〜35歳が、映像を楽しむ際にもっとも使うことが多いデバイスは大きく構成比が異なるのだ。全年齢では64%がテレビと答えているのに対して、35歳以下は49%まで下がる。PC、タブレット、スマートフォンで映像を楽しみ、テレビのような大画面は使わないという消費者が、若年になるほど増えていることを示している。
なぜなら、いつでも思いついたとき、思い思いの場所で映像を楽しめるからだ。ネット映像コンテンツは時間の身近なものが人気を集める傾向があり、これもテレビが置かれるリビングルームではなく、可搬性の高いモバイルデバイスでの視聴を促している。
もちろん、据え置き型のテレビを街中に持ち出すわけにはいかない。テレビ側でできることは、より快適にネットの存在を意識することなく、サクサクと映像を楽しめる環境を作ることだろう。現状、テレビのネットアクセス機能は、どれも及第点とはいえない。
他方、将来を見渡したときの高品位映像技術に関しては、8K化を目指す方向からHDR(ハイダイナミックレンジ)コンテンツへの対応に、業界全体がシフトしてきている。日本のメーカーは、シャープを除き8Kに熱心な姿勢は見せていなかったが、グローバルでみると、4Kパネルでさえ収益性が下がっている中、中国のパネルメーカー主導で早期に8Kパネルへと向かう流れがあった。
中国市場は画質評価があまり売上につながらず、スペック上の数字が重視される傾向が極めて強いためだ。4Kテレビの多くは中国で売れているのだが、その理由は中国メーカーが国内向けに、4Kへのアップコンバート機能などをきちんと実装しないまま、安価に4Kテレビとして販売しているため。その流れで8Kを進めようとしていたわけだ。
しかし、ディスプレイ産業分野の調査会社であるiHSは、最新の報告書で西欧、米国、日本といった地域が先導する形で、8Kではなく4K/HDRの出荷が伸びると予想している。2018年以降は、中国市場も一部消費者層が追従する一方、上記と同じ理由で中国市場のみ8Kテレビ市場が生まれるとの予想を発表した。これは筆者も同意見だ。そもそも、8Kテレビのスペックが有効になるのは、80インチ以上だとされている。そのような巨大テレビが売れる市場は極めて限られている。
映像フォーマットのトレンドは、確実に4K/HDRの方に向いており、8Kへのモチベーションは急速にさめていくだろう。
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