沖縄は日本で最もEdyが使われている場所であり、加盟店の幅広さ、生活への密着度合いでも他地域を上回っている。県民の生活の中に、「電子マネー」が定着している地域だ。県民が普段行く場所だけでなく、さらに観光スポットでのEdy対応も進んでおり、まさに“電子マネーアイランド”と呼ぶにふさわしい。
沖縄ではどのように電子マネーが使われ、また導入することによって、店舗にはどのような変化が起きたか――第1回に引き続き、沖縄の電子マネー事情を見ていこう。
コンビニエンスストアの勢力図は地域によってさまざまだが、沖縄はファミリーマートが強いエリアだ。店舗数は約190店舗、地域シェアは40%を超える。そして、沖縄のファミリーマートはEdy利用の火付け役になった加盟店の1つである。
沖縄ファミリーマートはファミリーマートが49%、リウボウが51%を出資しており、リウボウグループ傘下の“地元企業”の色彩が強い。そのため電子マネー導入においても、地域の事情を重視した戦略をとった。
「東京のファミリーマートでは初期からSuica電子マネーを導入していましたが、沖縄は(電子マネーで)蚊帳の外。一方、リウボウグループではEdy導入の動きがありました。
沖縄ファミリーマートでは電子マネー導入の可能性を感じていましたから、それでは沖縄だけでEdyを導入しようということになりました」(沖縄ファミリーマート常務取締役管理部長の大城健一氏)
コンビニエンスストアはナショナルチェーンの代名詞のような業種だ。当然ながら、“沖縄だけ”の独立した動きに、東京本部は難色を示した。そこで沖縄ファミリーマートでは手始めとして、2004年に那覇市内に1店舗だけEdy対応店舗を設置。導入効果の測定を行うとともに、東京本部との交渉を行った。
「最終的には『リウボウグループの意思』を尊重してもらう形で、沖縄ファミリーマートだけでEdy対応することが認められました。その背景には、東京本部も(東京で導入効果を上げていたが、東日本を中心に導入されている)『Suicaの全国展開はすぐには難しい』という判断があったのだと思います」(大城氏)
沖縄ファミリーマートは2005年にEdy対応店舗を広げた。実験店舗の段階ではクオカードよりも高い利用率を目標に掲げていたが、Edyの本格導入後、利用率は次第に高まり、「当初の予想以上の伸びになった」(大城氏)という。
「特に利用促進の効果で手応えがあったのが、リウボウグループ全店で行った『Edy Goキャンペーン』ですね。これは沖縄ファミリーマートだけでなく、リウボウグループの店舗全体でEdy利用のレシート1万円分を集めると特典が得られるというものだったのですが、大きな利用促進効果がありました。
特に主婦層の参加数は圧倒的で、(主婦の)コンビニ利用を活性化することができました。我々としては当初は学生など若いお客様が電子マネーの初期ユーザーだと考えていたのですが、フィールドに降りてみると主婦層が牽引する形になりました」(大城氏)
Edy導入の目的や効果はさまざまだが、沖縄ファミリーマートが特に手応えを感じたのが、この主婦層など新しい利用者層を呼び込めた点だ。
「もともとファミリーマートは主婦層の利用が多くなかったのです。だから、Edyの利用促進キャンペーンの結果には驚きました。沖縄ファミリーマートとしては新しいお客様を得ることができましたし、(リウボウの)スーパーマーケット事業との効果的な連携手段を得ることができました」(大城氏)
沖縄ファミリーマートにおけるEdy利用率は、売上比で4%強。当初は1%未満の利用率を想定していたので、すでに目標値を突破し、さらに利用率は伸びているという。
またEdy導入でもう1つユニークな“効果”となったのが、Edyチャージ拠点としての来店者増加だ。沖縄ファミリーマートでは各店舗にEdyチャージ機を設置しているが、沖縄全体のEdy利用が増加し、一方でEdyチャージできる場所が限られていることもあって「(ファミリーマートに)Edyチャージをするために来店し、ついでにお買い物をしていただくお客様が増えている」(大城氏)。これはQUICPayやiDなどクレジット系のFeliCa決済サービスや、駅がチャージ拠点になる鉄道系FeliCa決済にないポイントだろう。
ガソリンスタンドは提携カードを中心としたクレジットカードの普及が早く、1回あたりの決済金額も満タン給油で5000円以上と高め。Edyのような電子マネーは向かないと言われてきた。しかし沖縄では、Edy対応のガソリンスタンドが多い。特に大規模に導入を進めているのが、ゼネラルを扱う「伊れい産業」と、ENEOSを扱う「りゅうせき」などだ。
「沖縄のガソリンスタンドで本土と傾向が異なるのが、クレジットカード利用率の低さです。セルフスタンドの普及でやや上向きましたが、沖縄では『クレジットカードは借金』というイメージが強く、現金決済が圧倒的に多かった」(伊れい産業SS統括部課長の伊れい尚武氏)
このようにクレジット決済にやや保守的な環境下は、プリペイド方式のEdyにとっての追い風になった。現在、伊れい産業では所有する14のサービスステーションのうち、12カ所がEdy決済に対応。実際の利用状況では、「女性ドライバーを中心に、Edyで給油する人が増えている」(伊れい氏)という。
「Edy利用者の固定化で大きく役立っているのが全日空のマイルですね。給油は1回当たりの(決済額が大きく)獲得マイルが多いので、むしろ集客に役立っています。また、ガソリン以外の(オイルや洗車、車検などの)商品もよく売れるようになりました。クルマの維持費でマイルを獲得するというのは、大きな訴求効果がありますね」(伊れい氏)
同様の傾向は、ENEOSを扱うりゅうせきでも起きている。
りゅうせきは沖縄におけるEdy普及で初期の加盟店グループのひとつであり、ガソリンスタンドでのEdy導入も早かった。その背景には、全日空との提携があった。
「ENEOSでは以前から全日空とマイレージプログラムで連携をしていまして、飛行機に乗ってきたお客様がレンタカーを借りて、さらにENEOSで給油してもらうといった繋がりを重視していました。Edyも、このマイル連携の一環として重視した背景があります」(りゅうせき販売本部石油部販売店担当次長の国吉真永氏)
しかし、ガソリンスタンドには元売りブランドの提携クレジットカードを使った自社ポイントプログラム、いわゆる「ハウスカード戦略」もある。提携カードはEdyや一般クレジットカードに比べて決済手数料が安いこともあり、Edyの導入・利用拡大がハウスカード戦略に影響することを懸念する声も確かにあったという。だが、それでもりゅうせきがEdy導入を進めたのは、Edyが沖縄地域で業種・業態を超えて急速に広がってきたからだ。
「沖縄は昔から、業種・業態を超えて”沖縄地域”として横の繋がりを持つことを重視する傾向がありました。実際に沖縄ポイント構想といったものが検討されていた時期があったのですが、それを結果的に実現したのが(ANAのマイルを持つ)Edyだったのです」(りゅうせきエネルギー執行役員営業企画部マネージャーの根路銘 剛宏氏)
現在、りゅうせきでは110のENEOS店舗を持ち、そのうち約100店舗がEdy対応になっているという。
Edyが広がっているのは、県民の生活に根ざした場所ばかりではない。観光スポットにも急速に広がっている。
その代表格とも言えるのが、沖縄美ら海水族館でのEdy対応である。同水族館は那覇からクルマで2時間ほどの場所にあり、世界一大きなアクリルパネル水槽とそこで泳ぐジンベイザメなど、黒潮の魚たちが人気の観光スポットだ。昨年度は280万人以上の来館者があったという。
美ら海水族館でEdyに対応するのは、入館料を支払う受付、館内のショップやカフェ、レストランなど。メインエントランスにはEdyチャージ機も設置されている。
「Edy導入効果は予想以上ですね。今のところ利用率は2〜3%といったところですが、カフェでは顧客単価増大の効果も見られています。将来的には利用率5%を目指しています」(海洋博覧会記念公園管理財団海洋博公園管理センター水族館事業課営業係 係長の高山朝邦氏)
美ら海水族館のEdy対応は主に県外の観光客向けを狙ったものであり、実際、観光シーズンになると利用数が増加するなどその傾向が見られている。ANAのマイルと連携するEdyが、観光という利用シーンでうまく機能した一例だ。
県南にある大型観光スポットであるアウトレットモール「あしびなー」でもEdyを導入。年々、利用率が高くなってきている。
あしびなーは那覇空港からクルマで15分の距離にあり、多くのブランドのアウトレットショップが軒を連ねるショッピングモールだ。同様のアウトレットモールは全国の観光地によく見られるが、沖縄は飛行機に乗らないと来られない離島なので、本土では(既存商品への影響から)アウトレット品として出回らない商品がアウトレットモールで扱われる穴場スポットになっている。あしびなーの店舗数は約60、広さは1万400坪。一年間の来場者数は約170万人だという。
「現在のEdy利用率は平均で3%強です。昨年度は2%程度でしたから、順調に利用率は伸びていますね。うちでは他方式のFeliCa決済も導入していますが、Edyの方が導入効果が出ています。やはりANAのマイル連携効果が大きい」(沖縄アウトレットモールあしびなー 施設運営部マネージャーの田中宏樹氏)
あしびなーでは、県内と県外の来場者比率がほぼ半々だという。観光客と地元住民、そのどちらに対しても「ANAのマイルが貯まる」Edyの訴求力が高く、利用促進の要因になっているようだ。
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