インタビュー
» 2007年07月11日 10時59分 公開

神尾寿の時事日想・特別編:“カローラの発想”をクレジットカードに生かす――トヨタファイナンス(前編)

2001年にクレジットカード事業に参入した“後発組”ながら、順調に成長を続けているトヨタファイナンス。同社のカードは稼働率が高く“ユーザーに使われる”点が特徴だ。同業他社との違い、強みはどこなのか、インタビューで聞いていく。

[神尾寿,Business Media 誠]

 総発行枚数2億7000万枚を超え、今や就業者1人平均3枚以上を所有するクレジットカード。かつてはT&E(トラベル&エンターテイメント)のツールとして、所有すること自体がステータスであったが、今や巷に様々なクレジットカードが溢れ、一方でクレジットカード会社同士の競争は激しくなっている。

 そのような中、2001年からクレジットカードサービス本格参入の“後発組”ながら、順調な会員獲得や積極的な新規事業・新サービスへの取り組みで注目されているのが、トヨタグループでクレジットカード事業を担うトヨタファイナンスである。

 会員数13位ながら(2006年3月時点)、ETCカード発行数1位、新規入会1年以内のカード稼働率7割と“使われるカード”としてユーザーに選ばれる、強さの理由はどこにあるのだろうか? 今日の時事日想は特別編として、トヨタファイナンス常務取締役カード本部長の塘信昌(つつみのぶあき)氏のインタビューをお届けする。

トヨタファイナンス常務取締役カード本部長の塘信昌氏

改正貸金業法で苦しむクレジットカード業界

――トヨタファイナンスが2001年に「TS3 CARD (ティーエスキュービック)」を投入して以来6年目に入りました。5年という節目を超え新たな年に入ったわけですが、ここにきてクレジットカード業界全体が、上限金利の引き下げ問題で大きな変革期に入っています。トヨタファイナンスは今の市場環境をどう見ていますか。

塘:「当社がクレジットカード事業に参入したのは2001年でしたが、歴史的にはその前に5年間、(JCB、UC、ミリオンの)提携カードとして『トヨタカード』を発行していました。ですから、TS3 CARDは提携カード時代の流れをくんで、“クルマ”と“生活”関連のサービスを厚くしてきました。

 最近、クレジットカード業界で大きな話題になっているのが、改正貸金業法、さらに2006年1月にでた最高裁判決の凡例です。これは(クレジットカード会社が)グレーゾーン金利分の返還義務を負わされる、しかも記録がある分はすべて返還するというものでした(6月6日の記事参照)。この状況では、社歴が長くて(返還対象の)蓄積度合いの大きいところほど、返還請求に対する該当債権が多いということになる。従って、古参で信販系や流通系を中心とするクレジットカード会社が苦しい状況になってしまいました。金融系商品の扱いが重点的だった会社ほど苦境に立っているわけです。

 当社がラッキーだったのは、2001年からサービス開始と比較的歴史が浅く、さらに当初から金融系商品の取り扱いが少なかったことです。当社の母体(トヨタ自動車)も含めて、お客様の生活に密着した商品を扱っていこうというポリシーがありました。お客様がご無理をされない金融商品を提供するというスタンスでしたので、ポートフォリオに占める高利なキャッシングやローンの比率が低かった。ですから昨年5月の段階には、いち早く金利の引き下げを行いました」

堅実な“カローラの発想”が、逆風の中で強みになった

――社歴が浅いことと、高金利な金融商品に依存してこなかったことが、今のタイミングで“痛み”を抑える要因になったわけですね。多くの同業他社がT&Eやキャッシングやローンに比重をおいたビジネスをしてきたわけですが、トヨタファイナンスは逆に「日常生活での利用」を重視してきた。これらが今の環境変化にうまく適合したようにも見えます。

塘:「そうですね。スタートした時の事業性も含めて、方向感にそういう先見性があったと思います。我々のベースは「クルマ」であり「カローラ」ですから、あまり派手な出費をしているような人ではなくて、中間層の人たちに(TS3を)所有する便利さや喜びを感じていただきたかった。そういう想いが強かったことが、この5年間のスタンスの土台にあります」

左からVISA、MaseterCard、JCBブランドのTS3 CARD

――トヨタ、そしてカローラという視点で考えると、TS3の“生活総合カード”というスタンスはよく理解できます。カローラは多くの中間層の人々に、クオリティとコストパフォーマンスの高いモビリティを提供したわけですから。

塘:「(トヨタファイナンスは)ベースとして無理をしない。そこが基本になっています。

 信販系のクレジットカード会社も、本来のベースは販売信用だったはずなのですが、貸し金の方が儲かるようになり、そちらの比重が高くなってしまった。流通系もデスク業務中心だったものが、キャッシングやローンの利用が多いと儲かるので、いつの間にか店舗キャッシングを重視するようになった。今の(上限金利問題の)状況は、クレジットカード本来の姿への揺り戻しに近い状況じゃないのかな、と思っています」

「メインカードに強い」トヨタファイナンス

――昨年から今年にかけてのもう1つのトピックスとしては、クレジットカードの発行総量が2億7千万枚を超えて、利用人口やクレジットカード決済市場に対して過剰感が強くなってきたことがあります。クレジットカード会社の競争環境としては厳しくなってきているわけですが、後発組のトヨタファイナンスは現状をどのように捉えていますか。

塘:「クレジットカードの発行総数は2億7千万枚、市場規模は約30兆円あります。しかし、現金を含めた決済市場全体は約360兆円ありますから、クレジットカード市場はその10%弱を占めているに過ぎません。これが米国だと、25%がクレジットカードの市場になっています。こうして見ますと、クレジットカード市場としての伸びしろはまだ大きいのです」

――新規会員獲得ではなく、決済市場におけるクレジットカード利用のシェアを高めることで、市場のパイそのものを大きくするわけですね。

塘:「その通りです。ここで重要になるのが、少額決済と(税金などの)公金決済市場です。今後、高金利なキャッシングやローンのビジネスが難しくなる以上、ショッピングの市場を広げていくことが必要になります」

――北米市場を見ると、確かにショッピングの市場規模は大きいですが、クレジットカード会社のビジネスモデルとしては、「リボルビング払い」の利用金利を収益の柱にしています。だから、加盟店手数料が安くてどこでも使えるという構造がある。

塘:「米国などはリボ利用が非常に多いですからね。日本の加盟店手数料が海外に比べて高めなのは、(会員の)リボ利用比率が米国の7分の1くらいという事情があります。日本だと、リボ払いは全体の10%以下ですから。

 日本の場合、加盟店手数料は平均2%強。ただ、これを年利換算すると、40日の立て替え払いですから(365日で計算すると)約9倍になる。とすると、加盟店からの年利は18%強になるわけです」

――なるほど。金利を取る対象が、会員か加盟店かの違いはありますが、クレジット決済のビジネスとしては確立されているわけですね。

塘:「もちろん、加盟店から手数料をいただくには前提があります。

 1つは「立て替え金利」であること。加盟店には先に決済金額をお支払いして、会員様からは後取り。(加盟店から見ると)我々が立て替える形になっています。ここが手数料の要因としては最も大きい。もう1つが「事務手数料」。付け売りをしたら本来は販売店が請求管理をしなければなりませんが、それをカード会社が代行している。事務処理コストの部分です。最後が「リスク」ですね。販売店の貸し倒れリスクを、カード会社が負担しています」

――ただ、決済市場にビジネスの比重を置くということは、カード会員が積極的に「ショッピングで使う」ことが前提になります。しかも、複数あるクレジットカードの中から、TS3が選ばれる環境作りが必要になる。

塘:「そうですね。加盟店に対しても、販売促進に繋がる会員の送客をする必要があります。この点では、当社は「クルマ」と「生活」に重点をおいて会員獲得をしていますので、ポイントプログラムなどを通じて送客しやすい状況にある。例えば、石油元売り3社と(ポイント付与率を高くする)エキストラポイントの仕組みを導入していますが、そこでのTS3の利用は明らかに高くなっています。

 また、我々のビジネスの重点項目として、(会員の)「メインカード化」を狙うという点があります。クレジットカード発行総量は2億7000万枚ですが、就業人口などを鑑みますと、平均所有枚数は3〜4枚。このうち携行枚数は約2枚というのが実情です。この2枚に入り、メインカードになることが重要なのです」

大事なのは“いかにメインカードになるか”

――メインカードを目指すということは、最近はクレジットカード会社の合い言葉のようになっています。トヨタファイナンスでは、会員のカード稼働率は高いのでしょうか。

塘:「(トヨタファイナンスでは)決済利用が年間30万円以上あるカードを実際に稼働している「メインカード」と見ていますが、例えば、新規入会から1年で見ると(稼働率が)約7割あります。業界平均は5割強ですから、これはトップクラスの数字です」

――なぜ、それほど稼働率が上げられたのでしょうか?

塘:「やはり基本となるのは、「クルマ」を軸にサービスを展開してきたことですね。特にETCへの取り組みで他社をリードできたことが大きい。現在、TS3の発行枚数は約620万枚ですが、ETCカードは約260万枚を発行しています。ETC分野では我々がトップを維持していますが、ガソリンやETCでお使いいただけると(会員の)メインカードになる可能性が極めて高い。カーライフ重視で展開してきたことが、現在の稼働率の高さに繋がっています。

 また最近、特に力を入れているのが携帯電話の利用料金決済です。これは継続的にキャンペーンを行っている」

――携帯電話料金の決済で使ってもらう、というのは他のクレジットカード会社でも力を入れています。トヨタファイナンスならではの優位性はあるのでしょうか。

塘:「会員獲得でトヨタ車の販売店にご協力いただけている点が大きいですね。クルマをお買い上げいただく際に、TS3の入会もお勧めするのですが、そのときにETCと携帯電話料金決済の登録も合わせてお願いしています。(トヨタ車販売と連携する)キャンペーンプログラムはかなり奏功してきています」

後編へ続く)

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