1万2000円から“金”を取引できる――7月スタートの「金ミニ取引」とは?

» 2007年09月18日 14時31分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]
金取引は7月から10分の1の価格で取引ができる

 「金」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。多くの人は「金の延べ棒」や「宝飾」などだろう。しかし、投資の世界で金といえば、それは「金地金(きんじがね)」のことだ。一定の規格で商品化された金のことを金地金と呼び、取引されるのは純度99.99%以上と決まっている。金地金の一番上には「製造番号」が書いてあり、その下に「製造会社」「重量」「品質」などが刻印されている。こうして登録されている金地金だけが、市場で売買されているのだ。

 しかし、「自分には縁のない話」「どうやって買うのか分からない」といった人も多いはず。確かに金地金は現在、1枚(1キログラム)約260万円の購入資金が必要なため、個人投資家には“縁遠い”金融商品といえるかもしれない。

 野村證券が8月に「現在関心のある金融商品とその理由」について、個人投資家に聞いたところ、貴金属は10位で2385人中88人(3.3%)。国内債券やREIT(不動産投資信託)を上回っていた(9月6日の記事参照)。貴金属を選んだ理由は「安定した収益が期待できる」が最も多かった。

 個人投資家の間で関心が高まっている金取引と、7月からスタートした金ミニ取引について東京工業品取引所で話を聞いた。

現物と先物の取引方法がある金

 金の取引方法は大きく分けて「現物」と「先物」の取引がある。現物取引は、文字通り金地金の現物を売買することを指す。一方の先物取引とは、数カ月先の価格を現時点で予約する取引のことだ。もし期限が来た時に価格が変動していても、予約時の価格に変動はない。買い付けた時より価格が上昇していれば売買益を得られるが、下落していれば損失が発生する。

 先物取引には証拠金が必要で、証拠金額は1枚(1キログラム)で9万円。現物取引であれば1枚で約260万円が必要だが、先物取引では9万円から取引ができるため、一般的に資金効率が良いといわれている。

 ただし、危険もある。金の価格が1グラム45円変動すれば9万円の証拠金に、4万5000円の損失が発生する。東京工業品取引所の広報部は「50%の損失が発生すれば、証拠金9万円の50%つまり4万5000円を差し入れなければならない」と説明する。一般的に「追証(おいしょう)」と呼ばれるもので、損失が出るたびに証拠金を支払う必要があるため、初心者にとっては“怖い”といったイメージがあるのだろう。

 1グラム45円値下がりすれば、金の価格は260万円が255万5000円になる。つまり金の価格が1.73%下落すれば、追証が発生することになるのだ。さらに買った時点の価格よりも、売った価格が下落していれば、その差額も損失になる。金の先物取引は9万円の証拠金で260万円の取引、つまり30倍ほどのレバレッジ(少ない投資金額で大きな取引を行うこと)を効かせて売買しているため、ハイリスク・ハイリターンの金融商品といえるだろう。

決済時には手数料のほか、利益に対し20%の税率が必要となる。
東京工業品取引所のトレーディングルーム

金ミニ取引の取引実績は順調な滑り出し

 先物取引の初心者でも取り組みやすい「金先物ミニ取引」(金ミニ取引)が7月、東京工業品取引所でスタートした。金ミニ取引の特徴は、従来の取引単位1キロから10分の1の100グラムになったため、さらに少額の資金で取引ができることだ。また証拠金が1枚(100グラム)につき1万2000円なので、金価格が1グラム10円下がっても、1000円の損失で収まるのだ。

 また金ミニ取引では「ロスカット制度」(損失を予定の範囲に抑える)が新たに設けられた。事前に損失限度額を決めておけば、大きな損失を防ぐことが可能となった。例えば、差し入れている証拠金に対し、指定した割合以下にまで減少すれば自動的に取引を終了させることができる。同取引所では「金ミニ取引はローリスク・ローリターンの金融商品で、個人投資家にとっても選択肢が増えたのではないか」と話している。

 金ミニ取引の初日の実績は2万2258枚で、開始後1カ月の平均は約4500枚。「売買高はガソリンや原油など、他の金融商品の上場時と同水準で、順調な滑り出し」(同)と見ている。

東京工業取引所のWebサイトで金の相場を確認

許容範囲の損失額を決めておくことが重要

 金の価格を見ると、2002年は1グラム1300円台で推移していたが、現在は2600円台と5年間で2倍になっている。金価格が上昇する要因には「BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)など新興国の経済成長によって、金への投資が増えていることがある。また原油価格が高騰すれば、インフレ懸念で価格が上がる可能性もある。このほか“有事の金”(中東情勢やテロなど)として資金が金に流れることがある」(同)。

 一方、下落する傾向として、上昇要因の反対が挙げられる。BRICsの経済成長の鈍化や国際情勢が安定するケースなどが考えられる。また株価が上がれば、金の価格は下落するとも言われている。

 金ミニ取引の注意点を東京工業品取引所の広報部はこう指摘した。「商品先物取引の売買において、個人投資家の予測と違った値動きは当然ある。許容できる損失額を、あらかじめ決めておくことが必要だ」。証拠金が少額でロスカットの仕組みがあるものの、レバレッジは約20倍ある。先物取引の初心者にとって金ミニ取引は、“ローリスク商品”ではなく、商品取引員から説明されるロスカット制度を十分に検討する必要があるだろう。

金価格の推移、2000年は1グラム1000円ほどだったが、2007年は2500円を超えている

金ミニ取引の売買は、東京工業品取引所で行われているが、個人投資家が取引所に足を運んでも買うことはできない。経済産業省から認可を受けている商品取引員(株取引の場合の証券会社に当たるところ)で取引を始めなければならない。現在、金ミニ取引は23社で取り扱っている。

金ミニ取引を扱っている商品取引員

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