著者プロフィール:新崎幸夫
南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。
アッカ・ネットワークス(アッカ)の株主であるイー・アクセスが、突如として牙をむいた。既報のとおり、イー・アクセスは1月15日付けで関東財務局に大量保有報告書を提出し、アッカの筆頭株主になったことを報告。間髪入れず、16日にはアッカの経営陣交代を求める株主提案を行った。
アッカの取締役7人は3月下旬の定時株主総会で、全員が任期を満了して退任する。もちろん「無風」なら従来のメンバーが再任されるはずだったが、イー・アクセスの突き付けた要求は厳しいものだった。現職のCEOをはじめ実に3人を不再任とし、イー・アクセスの社員4人を新たに取締役に据えよ――という内容。7人のボードメンバーのうち過半数をイー・アクセス関係者が占めるようなら、経営上の重要な決定事項が、これらイー・アクセス系取締役の意向で決められてしまう。アッカが実質上、イー・アクセスの“支配下”に置かれると見ていい。
イー・アクセス側は今回の行動について「純投資目的」とのコメントを繰り返しているが、さすがにこれは客観的に見て、経営権奪取に向けた動きだ。もっと言えば「会社乗っ取り」と形容されてもおかしくないと考える。
イー・アクセスは筆頭株主とはいえ、全体の13%を占めるに過ぎない。このため、意見を通すためにその他大勢の株主を巻き込んだプロキシファイト(委任状闘争)が繰り広げられる可能性がある。ここで注意したいのは、アッカの定款によると委任状を作成できるのが、12月31日時点でアッカの株主名簿に記載された株主に限られること。12月末に株を追加取得し、年明けにそれを公開して、株主総会の議題に載せられるギリギリのタイミングで株主提案を繰り出してきたイー・アクセスの手法には、どこか狙い済まされた“用意周到”な気配すら漂う。
アッカの木村正治CEOは、2007年6月にイグナイトグループが「NTTコミュニケーションズから株式を取得する」と発表したタイミングで現職に就いた。半年しかたたないうちに、早くも解任の危機を迎えてしまったわけで、新体制で結果を出すまでの十分な時間がとれなかったかもしれない。アッカとしてこの動きを歓迎すべきか、そうでないのかは分からないが、仮に企業を防衛したいならStaggered Board(期差取締役会、全員を一斉には入れ替えられないシステムを採用すること)の仕組みを導入していなかったことは失敗だっただろう。なにしろ7人全員がゴッソリ入れ替わるので、一度“負けた”だけでパワーバランスが大きく変わってしまう。Staggered Boardを採用していれば、入れ替わる取締役の数が限られるので「今回はイー・アクセスが取締役を送り込める人数が2人に留まる」といった具合に、体制を立て直せる可能性があった。
イー・アクセスがアッカの株式を取得したのは、2005年春にさかのぼる。その後2006年に10%超を占め、第2位の株主になるという不気味な動きを見せていたが、そこで動きを止めていた。今回になって、ついに筆頭株主の地位に躍り出た格好だ。
順位 | 株主 | 保有比率 |
---|---|---|
1位 | イー・アクセス | 13.10% |
2位 | NTTコミュニケーションズ | 11.70% |
3位 | 三井物産 | 10.31% |
4位 | イグナイトBB | 8.00% |
5位 | 大和證券グループ | 3.82% |
イー・アクセスの千本倖生会長は、下がり続けるアッカの株を継続して買いつつ、株価低迷を批判しているようだ。しかし、2007年下半期以降はサブプライムローン問題やそれに関連した為替相場(円高ドル安)の影響などもあって、市場全体が低迷していた。アッカの上場市場であるJASDAQのインデックスが2007年の1年間で3割ほど下がったことを考えると、2007年に20万円程度の株価を付けたが、直近では13万円程度まで下がったアッカの株価を「著しく市場と比べ、アンダーパフォームしている」とまでは言えない。ちなみに当のイー・アクセス(東証1部)の株価も、2007年2月には9万円を超えていたが、1月18日の終値では6万3700円まで下げているし、もっと言えば2004年夏以降は下げ基調だ。
イー・アクセスにすれば、株安のおかげでアッカ株を安く取得でき、かつ「なぜ現行経営陣は株価を低迷させているのだ」と攻撃ができる。市場の低迷を、チャンスととらえた可能性もあるだろう。
ポイントは今回の騒動で、イー・アクセスの発表以来、アッカの株価が上がっていることだ。市場も、「イー・アクセスの経営陣によるアッカ運営」を好ましく思っているのかもしれない。そうなると、イー・アクセスが“敵対的乗っ取り屋”というよりは“企業再建に乗り出した通信事業のプロ”という位置付けになって、提案が通りやすい。海外ファンドが日本企業の買収および経営再建を提案した場合は“乗っ取り”と見られることが多いが、日本企業対日本企業だと少々事情が異なるだろう。
プロキシファイト(委任状闘争)では票読みが何より大切だが、上表で示したとおり保有比率の少ない「浮動票」が多いようなので、こうした雰囲気の醸成は何より追い風になる。また、第4位株主であるイグナイトはファンドであり、「儲かる側につく」という鉄則に出るはずだ。イー・アクセス経営陣の主導で株価が上がると見れば、提案に賛成する可能性もある。
気になるのは、NTTコミュニケーションズと三井物産の対応だ。三井物産は、イー・モバイルへの出資をした経緯があるので、イー・アクセスとさほど激しく敵対することはないかもしれない。しかしNTTコミュニケーションズは、NTTグループの一員として通信業界の新興勢力であるイー・アクセスを快く思わない可能性がある。NTTコムが「支配下にあったアッカをイー・アクセスにむしりとられる」という意識を抱いたなら、株主総会は一波乱あるだろう。イー・アクセスは今回の提案で、7人のうち3人の取締役をそれぞれNTTコムの代表者、三井物産の代表者、イグナイトの代表者に割り当てることで懐柔を狙っている。これがどれだけ功を奏するか。
1月18日現在でイー・アクセスの時価総額は900億円ほど、アッカは190億円程度。わずか13%の株を買っただけでイー・アクセスがアッカを意のままに操れるなら、旨みは大きい。いずれにせよこれから先2カ月間は、目が離せない展開が続きそうだ。
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