SaaSは全滅しない、だが半減はする──生き残りたい事業者は知るべき、「買い手」の本音(1/4 ページ)

» 2026年02月24日 08時00分 公開
[細野雄紀ITmedia]

著者:細野雄紀(ほその ゆうき)

株式会社JX通信社の取締役としてCOOやCXOを歴任。報道機関向けのSaaSを立ち上げ、マーケットシェアの80%超を獲得。2025年1月にイノベーション支援カンパニーの株式会社価値共創X(kachix.co.jp)を設立し、代表取締役に就任。


 米国で「SaaS is Dead」(SaaSの死)が叫ばれ、米セールスフォースなど大手4社の時価総額が、2025年末からわずか1カ月で15兆円消失しました。

 「SaaSは死ぬのか?」。筆者の答えは明快です。全滅はしない。だが、半減する。

 2015年にSaaS事業をPMF(Product Market Fit)し、直近ではAIエージェントのCX設計に携わり、日本の伝統的な大手企業(いわゆるJTC)で買い手側の立場に身を置いた経験も踏まえて、そう考えています。

 AIエージェントに組み込まれて、むしろ利用回数が増えるSaaSもあるでしょう。一方で、従来型のままのSaaSは、あっという間に賞味期限を迎えます。

 黎明期では、AIエージェントは既存のSaaSやシステムと連携し、人間の代わりに操作する──いわば「代替操作」の段階から始まります。この段階では、SaaSはまだAIエージェントの「道具」として生き残ります。しかし、その先に待っているのは、業務特化型AIエージェントがソフトウェアやデータベース層までを垂直統合で包含する世界です。

 AIエージェントが業務プロセス全体を掌握するようになれば、AIエージェントを提供する事業者が、自動化された新しい業務フローに最初から適合したソフトウェアやデータベースを包含して提供するようになるでしょう。しかもそれは、AIエージェントが刷新した新しい業務プロセスに完全に適合するソフトウェアのはずです。

 こうした流れを踏まえて、大半の業務用SaaSは、AI適応しなければ5年以内に死滅すると予想しています。

 では、生き残る側と消える側を分けるものは何か。それを理解するには、SaaS事業者の側ではなく、顧客(買い手)側で今何が起きているかを知る必要があります。

hy 大半の業務用SaaSは、AI適応しなければ5年以内に死滅する(提供:ゲッティイメージズ)

買い手の「組織OS」が書き換わろうとしている

 かつてのIT導入の議論と、今の議論はまったく別物です。

 どのボタンを押せば、今の作業が楽になるか──かつてのIT導入の議論は、これに尽きました。今の仕事のやり方を前提にした、表面的な効率化です。

 AIエージェント時代の議論は、質がまったく違います。「10人でやる業務を、1人の承認者だけで回せるようにする」「残りの9人は、人間にしかできない業務にシフトさせる」。こうしたAI事業者による提案が、大企業から中小企業まで、毎週のように行われています。

 これはもはや、ツール導入の提案ではありません。組織の動かし方や仕事のやり方を書き換える「組織OSのアップデート」の提案です。アプリを1つ入れるのではなく、OSごとの入れ替えといえるでしょう。だからこそ影響は広く深く、不可逆的になります。

 もちろん、AI製品の導入判断には、費用対効果とセットで自動化・省人化後の組織体制や新しいワークフロー、リスクヘッジの方法、業務上のルール、管理画面など、検討事項が山ほどあります。これらを調整して社内にインストールするのは並大抵のことではありません。

 一方で、こうした論点を整理するためのPoC(概念実証)はすでに多数走っています。これは「ツールを試す」PoCではなく、既存のワークフローや体制を丸ごと置き換えた場合の「設計図」を作る取り組みであり、その先にあるのは「AI前提のOS」への大転換です。

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