ドコモとソフトバンクモバイル重視へ。変化するメーカーの軸足神尾寿の時事日想・特別編(2/2 ページ)

» 2008年08月20日 10時57分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
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重要性を増す海外市場への「切符」

 ドコモとソフトバンクモバイル向け端末市場にはもう1つ、auにはないメーカーにとっての魅力がある。それが“海外進出のしやすさ”だ。

 先述したとおり、ドコモとソフトバンクモバイルは同じ「W-CDMA」を採用しており、これは世界的に見てもメジャーな通信方式になっている。一方、auが採用する「CDMA2000」は北米市場で一定のシェアがあり、これまで技術的な先行性が高かったという優位性があるものの、グローバルで見ればマイナーな通信方式である。この違いは端末メーカーのビジネスが国内市場だけで充足していた時代ならさほど問題にならなかったのだが、国内市場の端末総販売数が鈍化・縮退し、メーカーが「海外展開」を視野に入れるようになると参入市場を選ぶ上での重要な要素になる。

 さらにドコモとソフトバンクモバイルは、メーカーの海外進出を積極的に支援する方針を打ち出している。

 ドコモは総務省と共同でおサイフケータイをアジアを中心とした海外に展開していく計画を進めており、すでにシンガポールの通信大手StarHub社との提携が決まっている。これに伴い、ドコモ向けにおサイフケータイを作る国内メーカーも、シンガポールに進出する計画である。ドコモはこのほかにも、アジアを中心に出資や技術提携を積極化する方針であり、「(ドコモ向けの)メーカー各社が、海外市場にチャレンジしやすい環境作りに貢献したい」(ドコモ幹部)という。おサイフケータイの先には、ドコモがリードするスーパー3G(LTE)の国際標準化とグローバルでの普及推進が控えている。ドコモが率先して日本市場と海外市場との連動性を高めることで、かつての“ガラパゴス”を脱しようとしている。

 一方、ソフトバンクモバイルは、ボーダフォンと中国移動(チャイナモバイル)との技術開発で提携するなど、ドコモと同様に海外キャリアとの関係を深めている。メーカーの海外進出や販路開拓においても、直接的・間接的にこれら海外キャリアとの連携を活用。また、ソフトバンクモバイルの端末仕様は海外で売られている端末に近いので、部品を共用化しやすいというメリットもある。実際、シャープが中国で販売する携帯電話は、ソフトバンクモバイル向けの「920SH」をベースにしている。ほかにも、ソフトバンクモバイルはスマートフォンに積極的だ。iPhone 3G発売にあわせて、スマートフォン向け料金プランの大幅な値下げも実施しており、この分野でも国内と海外の市場が連動しやすい環境になっている。

 ドコモとソフトバンクモバイルはメーカーに“海外市場への切符”をちらつかせるが、auはそれができずにいる。当初はその鍵になるはずだった共通プラットフォーム「KCP+」も立ち上げ段階で失敗。海外への展開を狙うどころか、国内市場での競争で足をひっぱる有様だ。通信方式がマイナー路線であることはいかんともしがたいが、共通プラットフォームやスマートフォンなどそれ以外の部分に積極的に投資し、海外市場との連動性を高くしないと、auこそが「ガラパゴスの象徴」になる危険性がある。

KDDIはメーカーの「au離れ」を食い止められるか

 auが好調だった2007年前半まで、au向けの端末市場はメーカーにとって魅力的な場所だった。シャープやパナソニックモバイルなどがこぞって参入し、NECも当時「auへの参入は前向きに検討している」(NEC幹部)とコメントしていたほどだ。しかし、KDDIのさまざまなミスや怠慢が重なり、成長に陰りが見えると、auの端末市場は脆い。純増数が激減し、新販売モデルで機種変更需要も減退、しかも他キャリア向けの国内市場や海外市場との連動性が低いとなれば、メーカーがau向け端末に力を入れにくくなるのは当然だ。

 その上、メーカー内部からは、KDDIに対する不満や批判も聞こえてくる。特に「コスト削減の要求が厳しい」「商品企画や技術開発の自由度が低い」、「(ドコモに比べて)将来の展望や、中長期的な方針が見えにくい」という声を、筆者は多くのメーカー関係者から聞いた。au向けの端末開発は、ドコモやソフトバンクモバイル向けに比べて、窮屈で息苦しそうなのだ。auの既存シェアを鑑みれば、現在のメーカーがこぞって逃げ出すということはない。だが、メーカーのマインドの部分で“au離れ”の雰囲気が漂うようになったら、auのラインアップに魅力的なモデルが並ぶわけがない。

 KDDIはここ最近の不振について、端末の魅力減退がひとつの原因であると認めている。だが、それをさらに踏み込んでいえば、メーカーにとってau向け端末市場の魅力がなくなったことが、魅力的な端末が登場しない根本的な原因なのだ。KDDIは早急にau向け端末市場を建て直し、“メーカーのau離れ”を食い止める必要があるだろう。それができなければ、連鎖的にユーザーとメーカーにauが見放されるネガティブスパイラルに陥ることすら考えられる。

 むろん、いきなり通信方式を変えることはできない。だが、メーカーがしっかりとコストをかけて自由に企画・開発ができる環境作りは、携帯電話事業の収益に過度に依存する今の経営姿勢を改めればできるはずだ。KCP+も、コスト削減のためでなく、ユーザー目線のよいプロダクトを生み出す土壌として、しっかりと投資し育てていく必要がある。よい水と肥料を用意しなければ、よい花は咲きようがない。そこが広大な草原ではなく、限られたスペースの庭ならばなおさらだ。その点を今いちど、KDDIは考慮するべきだ。

 2010年をひとつのターニングポイントにして、携帯電話市場は再び激変期に入る。その中で、キャリアとメーカーの立ち位置が変化し、力関係が拮抗すると筆者は見ている。この新たな時代においては、「メーカーにとって魅力的な市場環境を用意できるか」が、キャリアの趨勢を見る上で重要な要素になりそうだ。

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