“ネットと政治”を考える(後編)――ネットユーザーが選挙でやれることとは?(3/9 ページ)

» 2009年05月05日 07時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

ネットがマスメディアを超えた米国

国際大学GLOCOMの楠正憲客員研究員

 私は外資の会社で働いているのですが、米国人はみんながみんな政治に興味を持っているわけではないと思います。日本と米国の環境の違いという点について、田中さん教えていただけますか。

田中 「多様性に富んだ米国社会の中で、オバマは人々の気持ちを1つにした」というところに私は一番注目しました。そこで、ネットが大きな役割を果たしました。「オバマ現象のようなことが日本で起こるかどうか」ということは当然かなり議論しないといけないですが、「オバマが採った基本的な原理原則は日本でも適用できる」とは思います。

 日本でも考え方が多様化していて、情報過多の中で共通認識というものが崩れてきています。米国では共通認識という土俵が崩れていたところに、オバマがネットという力を使って、潜在的な国民の意識を顕在化させた。共通の土俵を国民と作って、いわゆる民意を作り上げたというプロセスがあった。「日本でそれができるかどうか」というと、今までの議論でいくつかありましたが、法的な問題や意識の問題がある。これは政治家や「これじゃだめだ」と思う人たちがある程度、国民に働きかけていくことが重要なのではないかと思います。

 米国にもサイレントマジョリティがいて、これまで投票率はそれほど高くなかったのですが、今回は61.6%と高かった。ある程度閉塞感のあった米国の政治にオバマが登場し、サイレントマジョリティが動いてしまったわけです。「これは日本でも起こりうる」と僕は思います。

 ただ、日本では今までサイレントマジョリティがいたから、ある程度意見がブレずにきたというところもあります。(あるべき方向性からブレると修正するために働く)安全弁だった点があるのです。ところが安全弁だと思っていたのが、2005年の郵政選挙あたりから少し世論がブレはじめてきたなと思います。

 2005年の郵政選挙では、サイレントマジョリティが動きました。「小泉純一郎元首相は映像の魔術師だ」と僕は思うのですが、映像を使って1つのメッセージを流し込んだわけです。「郵政民営化イエスかノーなのか」ということで刺客選挙を行い、ホリえもんのようなキャラクターを出して映像をジャックし、1つのメッセージを出していった。「郵政民営化イエスかノーなのか」という1つの民意を、マスメディアに依存して作り上げたのが郵政選挙だったと思います。

 しかし、あの時に別の民意もあったわけですね。郵政民営化だけでなく年金もあったはずですが、「郵政民営化イエスかノーなのか」という1つの民意に絞られてしまった。ですからマスメディアに依存して民意を作るのはある種危険だということです。そういう意味で米国と日本を比較した時、まだ日本はマスメディア依存だと思います。

 米国では今回のオバマ現象で、多分ネットがマスメディアを超えたんです。オバマは選挙中はネットに自分のメディアを持っていて、それをマスメディアが追っかけたのです。当選後は「Change.gov」、さらには「WhiteHouse.gov」で同じことをやろうとしているのです。米国が明らかにネットがマスメディアを超えたという段階に入っているのに対し、日本は法的な問題や意識的な問題からまだ越えていないのです。「いかにネットがマスメディアを超えるか」ということは、これから米国を見ながらみんなで考えていくことになるかなと思います。

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