なぜ朝日新聞の記者は、高い給料をもらう“権利”があるのか? (7)上杉隆×窪田順生「ここまでしゃべっていいですか」(2/2 ページ)

» 2009年12月04日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]
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朝日新聞に就職して、一番驚いたこと

ジャーナリストの上杉隆氏

土肥 窪田さんは雑誌記者から朝日新聞に移られたわけですけど、朝日新聞に入って一番驚いたことは何ですか?

窪田 僕は朝日新聞に30歳で入社したのですが、最初に給与の説明がありました。提示された金額を見て「ものすごくたくさんもらえるんだ」と思ったのですが、しばらくして労働組合の人からこのようなことを言われました。「我々の給与は安すぎる!」と。これを聞いて、僕は「この人たちは頭がおかしいな」と思いましたね(笑)。

 給料以外にもガソリン代や住宅手当などもたくさんもらっていて、非常にいい生活を送ることができるんですよ。でも労働組合の人は「ケシカラン」というわけなんです。

 で、上司に相談したところ、このように言われました。「なぜ我々が、高収入なのか考えてごらん。我々は権力を監視しないといけない。権力を監視している人間は、いろいろな誘惑に乗らないように、ある程度の生活保障が必要なんだ」と。

 ということは給料の安い雑誌記者は、権力に迎合するということですかね、と聞いてみた。すると「そうとはいわないけど、我々は朝日新聞の記者。なのでそれ相応の報酬をもらわなければいけない。自分はもらいすぎだと思っていない」などと言ってました。

 かといってその人は高慢でもなんでもない。ごく普通の優しい人。だからよけいに「やっぱりちょっと朝日の人は違うな……」と思ってしまった(笑)。

上杉 同じ日本人でもビックリするのに、海外メディアからすれば理解不能でしょうね。

窪田 海外メディアで働いている人の収入は、日本と比べてかなり低い。年棒制で1年契約といった形が多いのですが、それでもなぜメディアで働くかというと、お金のことよりもまず自分が追いかけているテーマを取材することに重きを置いているから。

 だから朝日新聞で1000万円もらわないと不正をする、といった考え方は特殊だなあと思いましたね。でも考えてみれば政治家も政党助成金をもらっていますが、これは「政治家が不正をしないように」という意味で税金が投入されているのかもしれません。なので朝日新聞の給料が高いことも、お役人的な発想から生まれているのかもしれませんね。

上杉 お金があっても悪いことをする奴はいるし、お金がなくても悪いことをしない人はいっぱいいる。こんな単純なことが分からないのかなあ……朝日新聞の人たちは。

 日本の新聞記者……というとムカツクので新聞社員は、出世すると経営者側になるわけじゃないですか。朝日新聞の社長や役員、部長になることが、自分の人生の頂点。でも海外メディアの記者は違っていて、どこの新聞社にいるのかは関係なくて、最終的にはフリーになり、自分の本を出すなどして、ジャーナリストとして世間に認められることが頂点なんですよ。

 日本の新聞社員と海外メディアの記者との間では明確にゴールが違っているので、そもそも話がかみ合わない。日本の新聞社員の頂点は社長かもしれないが、海外の記者の頂点は社内では編集主幹やコラムニスト、それよりもフリーランスの方が上。なので海外では「ニューヨーク・タイムズで働いているからすごいですね」なんて思いもしない。けど日本では「朝日新聞で働いているんですか。すごいですねえ」といった価値観になってしまう。

 第8回へ続く

上杉隆(うえすぎ・たかし)

1968年福岡県生まれ。都留文科大学卒業。富士屋ホテル勤務、NHK報道局勤務、衆議院議員・鳩山邦夫の公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者などを経て、2002年にフリージャーナリスト。同年「第8回雑誌ジャーナリズム賞企画賞」を受賞。

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年』(新潮社)、『小泉の勝利 メディアの敗北』(草思社)、『ジャーナリズム崩壊』(幻冬舎新書)など著書多数。


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