現実と仮想とを問わず、私たちは商品の物質的な機能以上のものに対して、お金を支払っている。例えばクルマならば、多くの人は機械的特性だけではなく、ドライブをする楽しみを買っている。アイシャドーならば、化学物質としてではなく、化粧をして華やかになる自分への期待を買っている。
マーケティング論では、すべての商品にはこうした物質的特性以上の価値(無形性)があると考えられている。一般に思われているほど、有形物と無形物の差は絶対的ではない。「商品・サービスの見た目や形態がどうであるかではなく、それを使う消費者が最終的に受け取る便益は何なのか?」、これを考えるのが無形性のマーケティングである。
再びアバターについて考えよう。現実世界の自分も仮想世界のアバターも、ともに自分らしさという無形性を表現するものと考えるとどうだろうか。
映画『アバター』の主人公は、地球人の軍人である時も、パンドラの大地を駆けめぐる異星人アバターの時も、ともに彼自身であった。どちらかが本当で、どちらかが偽物ということはない。「I See You」というパンドラ星のあいさつは、肉体の奥にある“本当のあなた”、つまり「人格という無形性が見える」という深遠な言葉に感じられる。
電脳世界のアバターも、本来ならばゲームの思い出や友人との関係など、いろいろな意味を持つものである。しかし、ソーシャルゲームが登場した現在、アバターやアイテムを単体として見る傾向がある。「よりきれいなグラフィックのアイテムを用意すれば、たくさん売れる」という考え方である。
物理的法則から解放された、何でも表現できる仮想世界なのだから、現実世界の延長線上で、外見に縛られた発想ではもったいない。もっと自由な発想で「ユーザーの自分らしさ」を表現する方法や場を作ることが大切なのではないだろうか。
成蹊大学経済学部准教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活を送る。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているフリをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。
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