議会戦術や駆け引きばかりの党は、国民の支持を得られない藤田正美の時事日想

» 2013年10月23日 07時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 さんざん「ねじれ国会」に悩まされてきた日本。ようやく2013年の参院選で自民党が勝ってねじれが解消され、安倍政権は意気軒昂(いきけんこう)だ。アベノミクスが本当に効果を上げられるのかどうか、現在の臨時国会を「成長戦略実行国会」と呼び、産業競争力強化法案やら国家戦略特区法案、さらには日本版NSC設置法案、特定秘密保護法案などの重要法案を成立させようとしている。

 日本と対照的に、「ねじれ国会」に悩まされているのが米国のオバマ政権だ。10月から会計新年度だというのに、2014年度予算が連邦議会で過半を占める共和党の抵抗で成立せず、政府機関の一部閉鎖に追い込まれたのは周知の通り。さらに先週には、米国債が初めてデフォルト(返済不能)に陥るかどうか瀬戸際に追い込まれた。これも共和党が債務上限額引き上げに抵抗していたためである。この2つの問題、当面は解決したが先送りされただけで、また同じ問題が蒸し返される。

共和党は過去最低支持率に転落した

 前々回のこのコラムでも書いた(参照記事)ように、共和党が抵抗しているのは「オバマケア」と呼ばれる健康保険改革法(Affordable Care Act)を実施させないためだった。この法律は2010年に民主党が連邦議会の上下両院で多数派であったときにオバマ大統領肝いりの政策として成立したものである。

 少なくとも法律として成立したものである以上、いかにそれが気に入らなくても予算や債務上限を「人質」にして抵抗するのはおかしな話なのだ。もしそんなことが許されれば、上下両院のどちらかで過半数を握った「野党」が自分たちの要求をごり押しできることになる。日本流の言い方をすれば、「憲政の常道」に反する行為だと思う。

アメリカのデモクラシー アメリカのデモクラシー

 オバマケアは5000万人ともいわれる無保険者をなくそうとする野心的な試みだが、大きな政府を嫌う共和党には反発が強い。米国では政府の役割を限定しようとする伝統があるが、それは国の成り立ち方が他の国と大きく違うためだ(そのあたりはトクヴィルの『アメリカのデモクラシー』という古典的名著に詳しい)。小さなコミュニティから始まった社会はやがてそれが結びついて町になり、郡になり、州になる。そして最後に連邦ができた。つまり国家は州の総意として存在しているのだから、あまり大きくないほうがいいという考え方だ。

 それでもいったん成立した法律の施行を遅らせようとするのは姑息(こそく)な手段であり、正当性に欠ける。それを見抜いたのか、共和党の支持率は28%と過去最低になった(民主党の支持率は43%)(参照リンク)。2010年から2012年にかけてはかなり拮抗していただけに、共和党にとって大きな痛手である。これでもし2014年の中間選挙においても上院の過半数を握ることができず、さらに2016年の大統領選挙で政権を奪還できなくなれば、共和党の力は大きく削がれることになるだろう。

民主党と共和党の支持率推移 民主党と共和党の支持率推移(出典:GALLUP)

 見かねたのか、共和党の重鎮、ジェームズ・ベーカー氏がフィナンシャルタイムズ紙に寄稿した。ベーカー氏は、第1期レーガン政権で首席補佐官、2期目のレーガン政権で財務長官、ブッシュ(父)政権で国務長官、首席補佐官を務めている。『再び勝つためには、共和党は希望の政党でなければならない(参照リンク)』と題したコラムで、日本の政党にも通じるところがある。

 ベーカー氏は正論をぶつ。「オバマケアを変えたければ、上院で過半数を占め、大統領選挙に勝て」という。そして共和党が勝つために「最も大事なことは、もう一度、希望、機会、オプティミズム(楽観主義)の政党になることだ。怒りや恨みの政党になってはならない。レーガン大統領が米国の復権を指して『光り輝く丘の上の町(shining city upon a hill)』と言い、ブッシュ(父)大統領が『千点の光(thousand points of light)』と言ったとき、国民は拍手を送った」と書く。

日本の野党は明るい未来を描いているか?

 このベーカー氏の教訓を日本に当てはめれば、民主党をはじめとする野党は、将来の日本の姿を常に描きながら、それを明るく変えていくかをどう提示するかが大事ということになるだろう。最近の民主党は対立点を強調して存在感を出そうとしているように見える。しかし安倍批判だけでは、3年後のおそらく衆参同日選挙には勝てない。まさに「怒り」と「恨み」だけでは、国民の支持は得られないということだ。

 結党以来、最低の支持率にあえぐ民主党が立ち直るには、地に足のついた現実的政策論議をどこまで国会などで深めることができるか、その一点にかかっている。海の向こうで、議会戦術や駆け引きばかりに走っている共和党が、国民から冷たい目で見られているのを、政治家たちはどう考えているのだろうか。

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