カリスマ投資家はなぜコミケで“萌え”系マネー同人誌を出したのか?五月&雄山スズコインタビュー(1/7 ページ)

» 2013年12月25日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
コミケでは株にまつわる同人誌が数多く売られている

 世界最大規模の同人誌即売会として知られるコミックマーケット(コミケ)。1年に2回、夏と冬に開催され、2013年の夏は3万5000サークルが同人誌などを販売し、のべ59万人が来場。日本の草の根的創作活動においては、中心とも言える場所である。

 会場には人気のマンガやアニメを題材にした同人誌が多く並ぶが、中にはビジネスに関する同人誌も販売されている。その1つが投資をテーマにした同人誌だ。毎回、数十サークルが本イベントに出店し、1000部以上売り上げているサークルもある。

 現代は同人誌だけでなく、ニコニコ動画やTwitter、ブログといったWebサービスの広まりで、気軽に個人が情報発信できるようになったが、なぜ彼らは投資についての創作活動を行っているのか。動画「クソ株ランキング」シリーズや『東方Project』のキャラクターを使った投資の同人誌を作っている五月さんと、Business Media 誠で『カブ・ジェネレーション』を連載し、投資マンガの同人誌を作る雄山スズコさんの2人に創作活動の原点を尋ねた。

プロフィール:五月

元個人投資家で、2013年5月から運用会社レオス・キャピタルワークスのシニア・アナリストに。2005年に株式投資を開始。当初はデイトレード中心だったが、2009年以降は中小型株の中長期トレードを行い、7年半で投資資金を約2000倍に増やした。ニコニコ動画でクソ株ランキングシリーズなどを公開したほか、同人誌『東方粉飾劇』『専業投資家 霧雨魔理沙』『ウチの社長がダメなんです!』『東方マネー2013年夏号』を発行。公式サイト「東証Project」コミケ参加情報:12月31日 西地区 や-05b。


プロフィール:雄山スズコ

漫画家兼投資家。政治経済ジャンルに主に生息。2004年に中国株を始めて以来、日本株、各種外貨資産などさまざまな金融商品で痛手を負うが、こりずに挑戦中。著書に『政治萌え!〜国会ゆるゆる観察日記』(司書房)、『国会萌えコメディ 政界のまんががこんなにユルいわけがない』(集英社)。公式サイト「桃熊薬局」。カブ・ジェネレーション単行本『新感覚投資コメディ株に恋して』(中経出版)が11月26日に発売。コミケ参加情報:12月30日 東4ホール モ-17b。


ニコ動に「クソ株ランキング」を投稿したら20万再生

――まず投資の世界に入ったきっかけから教えてください。

五月: 高校を卒業して専門学校に進学したのですが1年で辞めて、4年ほど『ラグナロクオンライン』というオンラインゲームをやっていました。でも4年もやっていると、さすがに飽きてくるんですよね。同級生も就職活動する時期になり、そろそろ現実に向き合わないといけないタイミングで、株取引をテーマにしたドラマ『ビッグマネー!〜浮世の沙汰は株しだい〜』を見る機会がありました。それで相場の魅力を知り、次はこれじゃないかと思って、取り組み始めたのです。

雄山: 私は高校の時、大学受験のために三国志や水滸伝を読んで中国に興味を持って、大学も中文科に進学しました。その中文科の先生が「2008年の北京オリンピックで絶対に株が上がるから」と話していたんです。“株は怖い”という気持ちからすぐに始められなかったのですが、いつかやりたいという気持ちにはなりました。

 その後社会人になって、会社に行って帰るだけの生活が続いて、何か新しいことがしたいと感じていたとき「大学の先生があんなこと言っていたなあ」と思い出したんです。さらに本屋で『中国株で1000万円もうける』というタイトルの本を見つけ、中国株を始めたのです。

――投資することと、投資をテーマにした動画や同人誌を作ることの間には、大きな飛躍があると思うのですが、どのようにして行き着いたのでしょうか。

五月: 僕は同人誌より先に動画を作ったのですが、最初に投稿したのは2007年です。ニコニコ動画が盛り上がり始めた時期で、最初は見ている側、つまり消費者でした。すごい動画から、アマチュア臭がする動画まで、次々と新しい作品が出てきていて、個人の創作に対する熱量のようなものが渦巻いていて、「これはものすごい」と見ていて感じました。この流れに乗って、参加する側になりたい気持ちがわいてきたんです。

 ただ、動画を作ったこともなければ、絵を描いたり音楽を作るスキルもありません。どうしたものかと悩んだのですが、ちょうど組曲『ニコニコ動画』の替え歌がはやっていたので、これなら自分でもできるだろうと、組曲「株式相場」という動画を作りました。

 当初、再生数は数百くらいだろうと思っていたのですが、すぐに数千くらいまで伸びて、株のコンテンツを動画にすることにニーズがあると気付きました。それなら、オリジナル動画を作ったらどうなるかと興味が出てきたんです。ちょうどそのとき、東証二部のアイ・エックス・アイという会社が、粉飾決算で倒産しました。株価が20数万円で時価総額200〜300億円ある状態から、一気にゼロになってしまったのです。

 アイ・エックス・アイは成長性が非常に高かったので、僕は結構好きでした。粉飾していると数字は作れるので、超高成長のように見えましたからね。何度も取引していたので、「もしかすると被害を受けていたかもしれない」というのと「こんなにいい会社に見えるのにダマしていたのか」という思いで相当ショックを受けました。「こんなことが起こりうるのか!」と。それを世間一般に広めたいと思ったのです。

 また、その前年がライブドアショックのあった2006年で、大きなことから小さなことまで上場企業の不正や不祥事があまりにも多いと感じていました。株を始める前は上場企業というとそれだけですごい存在、社会の規範となる存在だと思っていたのですが、実はそうでもないという感覚を持つようになりました。そのギャップを世間に伝えれば面白くなるだろうし、知ってもらいたいという思いがあって、「クソ株ランキング2007」という動画を作ったのです。

――こういうことは広告収入がメインのメディアではやりにくいですね。「クソ株ランキング2007」は5万再生、翌年の「クソ株ランキング2008」は15万再生を超えていますが、再生数が大きく増えたのはなぜでしょう。

五月: 1つは僕が1回作ったことでもっと良くできるところが分かって、クオリティが多少高まったこと。もうひとつはリーマンショックの年なので、あまりにも衝撃的な値動きが起きたからではないでしょうか。100年に1度と言われるの歴史的な出来事の当事者として、何とかこれをまとめなければと夢中になって作ったので、僕としても一番モチベーションの高かった動画です。

 「クソ株ランキング2007」は、株オタクの人たちに注目されたところもありました。再生数やコメントの数が多いだけでなく、ちゃんと内容を理解している人から「あの事件はこうだったよね」「この銘柄はお世話になった」という反応があって、そういうことを語る場として機能していると感じました。一方、2008年版ではリーマンショックを触媒として、株をやっていない人たちにも広がったのが、再生数が増えた要因だと思います。

 正直、動画を編集する作業は嫌いです。頭にイメージはあるのに、それを映像化するために膨大な作業をしないといけないので。できた映像がイメージのクオリティに達しないのでがっかりすることもありますが、シーンと音楽がうまくかみあったときは気持ちいいです。音楽に合わせてテキストを出したり、シーンを切り変えたりする部分は細かい調整を繰り返しましたが、コメントで選曲をほめてもらえたのは、うれしかったですね。

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