――雄山さんは最初から同人誌ですよね。
雄山: 私は同人誌を作ることに慣れていたというか、ずっと水滸伝や国会のパロディを描いていたので、好きなことがあったら同人誌を作るのは当たり前みたいになっていたんです。
同人誌を作る背景として、「こんな風に思ったんだけどどう?」「ああ、私もそう思ったよ」「本当にそうだよね、このキャラクター」みたいに、同じことを他の人も考えているんじゃないかという仲間探し的な面があります。
株をやるといろいろ優待がもらえるし、株価が少しでも上がれば楽しい。相場は毎日動いていますし。街の中にはいろんな企業があって、「あのチェーンの店舗がまた増えてる!」みたいに楽しめることがたくさんある。「みんなもやろうよ。こんなに面白いよ」と知ってもらいたいという感じでした。同年代の同僚や友達は株をやらないので、語り合える人がいなかったんですよ。
――最初に出したのは『株なんて大っ嫌い』という4コママンガでしたね。
雄山: 売れると思わずに作りましたね。コミケのような場は、株と相性が悪いと思っていました。好きなキャラクターがいて、そのキャラクターへの愛で同人誌を作っている人が多いため、オリジナル作品はあまり売れません。「同人誌を利益目的でやるな」と主張する人も結構いて、あまりお金を語らないという風土もありますし。
最初はコミティア(二次創作抜きの、オリジナル作品のみの同人誌即売会)にコピー本を20部ほどしか作っていかなかったのですが、全部は売れませんでした。
ただ、描くのは楽しいんです。それに何回か出すうちに売れるようになってきて、需要がゼロではないし、減ることもないんだなと。株価が上がっていた時期だったので、やってみようと思っていた人たちが買ってくれて、販売スペースで声をかけてもらえたりもしました。自分の同人誌をきっかけに株を始めてくれて、語れる人が増えたかもしれないと思うとやめられなくなって、第二弾、第三弾、第四弾と出して、1冊の本にまとめました。全部合わせて2000冊ほど売れましたね。
――どんな内容だったのですか。
雄山: 「株でこんなひどいことがあったんだけど」「こんな楽しいことがあったんだけど」みたいな、基本的には自分が経験したことをキャラクターにさせるというものです。内容を理解するために言葉の意味が分からないと読めない部分があるだろうと思って、用語解説もつけました。ただ、それがあったので「初心者だけど読みやすくて助かったよ」という話は聞きました。
最初は「こんな売れない本を作ってどうするんだろう」という気持ちがあったのですが、株で共感できる人を探したい、読んでもらいたい、やってもらいたいという思いが背中を押してくれました。
――仲間探しで作っていたんですか(笑)。株の同人誌って当時から結構売っていましたよね。僕が2007年の夏コミ(夏の回)で雄山さんを見かけた時は、20〜30サークルあったように記憶しています。
雄山: そうですね。何か間違っていますね。評論ジャンルに並んでいた五月さんの同人誌も、1〜2回買ったことがあります。五月さんの同人誌はマンガが入っていますが、その界隈はマンガの入っていない同人誌が多かったので「私は評論ジャンルではないな」と思ってしまったこともあって政治ジャンルで申請しているのです。ちなみに株サークルの人たちはほぼ評論ジャンルのスペースで販売しているので、私は周りの株サークルの動向が全然分からなかったんですよね。
――コミケにはいろんな同人誌があって、金融機関が擬人化されている同人誌もあるとか。
雄山: それ私は商業流通で書きましたよ。光文社から打診されて、最初は日本の金融機関でやりたかったのですが、日本企業は勤めている人がたくさんいて生々しいので、モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスで描くことになりました。いわゆる腐女子向けの内容でしたね。
ドラマ『ハゲタカ』がテーマの同人誌があったりと、お堅いジャンルに萌えたがる人っているんですよ。今も企業擬人化をやっている人がいるのですが、デパート擬人化とかいろんなジャンルがあるんです。『新感覚投資コメディ株に恋して』を出版してくれたKADOKAWAは先日、9社が合併してできたのですが、そのKADOKAWAが"受け"なのか"攻め"なのかということが一部で話題になっているとか。大人向けの腐女子ジャンルというのが、一定数あるようです。
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