ティー・リーフ・ネーションの記事は果敢で頼もしい女神的リーダーシップ(3/5 ページ)

» 2014年01月07日 10時00分 公開
[ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ,Business Media 誠]

中国で最も活躍している女性たち

 ベシー・リーは「自信」を絵に描いたような人物だ。挨拶するときもリーの瞳は静かな自信で輝き、「よりよい中国は共産主義体制の『効率的な機構』によっては生まれない」と語る声も自信に溢れている。むしろ、よりよい中国を生む役割を果たすのは民間企業であり、民間企業はいま、人々の嗜好、姿勢、行動に影響を及ぼし始めている。彼女はインタビュー開始からほどなくこう語った。

 「市場が大きいですから、影響を及ぼせる相手は星の数ほどもいます。とてもワクワクするし、とても満ち足りた気分です。ここ中国に身を置いて、この国でしかできない仕事をしたいです」

 彼女の両親は中国本土で生まれ、1949年に共産党が実権を握ると台湾へ逃れた。父親は、改革によって中国へ帰還する道が開かれるのを待たずに他界したため、祖国の思い出を忘れまいとして、古くからの伝統をひたすら守っていた。祝日を昔ながらの流儀で祝い、中国に古来から伝わる特別な料理を用意した。リーは2002年に初めて中国の土を踏み、やがてここを祖国と呼ぶようになったが、その実像は父親には想像さえつかなかったであろう躍動する近代国家だった。

 彼女は、国際的な広告・メディア企業グループM(本書の著者の1人、ジョン・ガーズマの会社の傘下にある)の中国事業部のCEO(最高経営責任者)に就任した。広告業界が発展を始めたばかりの巨大市場に飛び込んだのである。成長機会も、最高水準の仕事ができるチーム構築の機会も、無限に近かった。人材の特徴を調べていると、イノベーションと創造性に関しては煮え切らない面があることに気付いた。どの分野においても、ブレークスルーは主として現状に挑戦しようという強い意欲から生まれるが、リーの分析によれば、中国ではこの意欲は、他国との交流が少なく教育制度も独特だという事情により、すっかりくじかれているようだった。

 「この傾向は中国だけでなくアジア全体に見られます。ただし、この国では特に深刻でしょう。ずっと内向きの政策でしたから」

 中国では何十年ものあいだ、先例主義が邪魔をして投資活動が活発化せずにいた、とリーは語る。海外の実績ある製品を模造する企業にはポンと資金を出すが、まったく新しい製品やサービスを考案した起業家や企業への投資には後ろ向きだった。

 「枠にはまらない発想や権力への挑戦といった概念は、この国では馴染みがないのです」

 こうした概念の大切さを知るリーは、創造性を発揮できる環境を築くのが、自社、そして第2の祖国に尽くす最善の方法だと考えている。

 わたしたちは上海のスタイリッシュな広東料理店、Zenで昼食をとりながらリーに取材した。満席の店内では、見た目の美しい飲茶を食べながら、ビジネス談義を交わす人々の姿が目立った。流行の最先端をいく店だけに、キャリアウーマン風の女性客も多かった。職場での女性差別は完全になくなってはいないが、文化大革命の恩恵でかなり減ったといい、リーはこれを中国が発展するうえで大きな強みになると考えている。もっとも、女性的な強みはこれからの経済に欠かせないにもかかわらず、社会的な要因のせいで十分には発揮されていない。

 1960年代、70年代に成人した女性は権力を持つことに抵抗がなく、男性とほぼ互角の地位を築いたが、時代の空気が妨げとなり、大きな創造性を放つことはなかった。この状況はファッションにも表れたという。中国が開放政策を取る以前、「女性はファッション、メイク、ヘアスタイルに関心を払うべきではない」とされ、右へならえの傾向が強まった。何より困ったのは、この結果、国への忠誠がすべてに優先するようになったことである。

 「共産党や毛沢東を批判した人はみな、密告の対象になりました。愛する人、両親、配偶者、子どもでさえも」

 密告された人は街中へひきずり出され、蹴られたり、屈辱を与えられたりした。「その光景を目にした子どもたちは、身を潜めているように言われるのです。大勢のなかで目立とうとせず、できるだけ静かにしているようにとね」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.