本連載は、山本純子著、書籍『入門クラウドファンディング』(日本実業出版社刊)から一部抜粋、編集しています。
本書は国内外の諸事情に通じた気鋭のコンサルタントによるわが国初となる「クラウドファンディング」の本格的な入門書です。
不特定多数の人たちをフォロワーに変え、資金を提供してもらいプロジェクトを実現する仕組み――それがクラウドファンディング。クラウドファンディングが大きな注目を集める“本当の理由”とは? 単なる資金調達の手段を超えてプロジェクトの進め方を大きく変える、新しい“おカネの集め方”です。
キックスターターといった世界最大のプラットフォーム、莫大な資金調達をクリアしたプロジェクト、世界的映画監督が仕掛けたプロジェクトに対するさまざまな議論の応酬など、興味深いエピソードも満載。起業家(予備軍)やベンチャー経営者のみならず、一般企業の経営者必読の1冊です!
このようにクラウドファンディングとは、インターネットを「介在させる/させない」にかかわらず、古くからある資金調達手法です。
しかし、なぜ今また改めて注目を集めているのでしょうか。実は、オンライン新語辞典『ワード・スパイ(Word Spy)』によると、「crowdfunding」という言葉が英語圏で最初に登場したのは、2006年8 月の「ファンダヴィログ(FUNDAVLOG)」(※1)というウェブ上においてだと説明されています(※2)。
つまり、クラウドファンディングとは大昔からある概念である一方で、21世紀に入って一般的に使われるようになった新しい言葉という側面もあるのです。なぜ新語として世の中で利用されるようになっていったか、その時代背景に「なぜ今、クラウドファンディングなのか」の答えはあります。
それには大きく分けて2つの背景が考えられます。
まずインターネットの日常への普及が時代背景となっています。90年代後半からインターネットを利用してのクラウドファンディングが行われるようになったと書きましたが、まだこの段階では一般的に普及していたとは言えません。クラウドファンディングを実施するためにオンライン決済機能をつけたサイトを制作することは、まだまだ一般的にコスト、技術ともにハードルの高いものでした。資金を提供する側からしても、オンラインを通じて決済することには、心理的なハードルの高さやわずらわしさがありました。
先のマリリオンの事例のように、かなり思い入れのある人たちが集まらないと、それらのハードルを超えることは難しかったと思います。そもそも、インターネットに日常的にアクセスする環境がない限り、そのサイトの存在を知ることも見ることもできません。
しかし、21世紀に入りインターネットが人々の生活に浸透するにつれて、人々の生活スタイルにも変化が現われます。
ニューヨーク大学准教授であるクレイ・シャーキーが書いた書籍『みんな集まれ! ネットワークが世界を動かす』(筑摩書房)は、インターネットの普及がもたらした変化を分かりやすく紹介しています。同書によるとインターネットの汎用性の効果のうち最大のものは下記の2つだと述べています。
シャーキーは、インターネットが多くの人々にとって日常のツールとなることで、人々が集まることや集団で行動を起こすことに関して、これまでにかかっていたコストや障壁、手間が劇的に減って簡単になったことを指して「バカバカしいほどの集団化の容易さ」(※3)と同書で語っています。
それに呼応するように、2000年代に入って人と人がつながるネットワークをウェブ上で構築するサービスである「ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)」が次々に登場します。02年のフレンドスター(Friendstar)や03年のマイスペース(MySpace)を経て、世界最大のSNSであるフェイスブック(Facebook)が誕生したのは04年、ツイッター(Twitter)は06年です。日本でも、ミクシィ(mixi)やグリー(GREE)は04年にスタートしました。
SNSの登場と普及により人々はさらに意識的に、知人や同じ趣味の者同士、あるいは市民活動や政治運動など、さまざまな理由でウェブ上に「集まる」ことが頻繁になっていきます。そしてさらに、その集団を可視化すること、個人もしくは集団としての意見を表明したり、何かを生み出すこと、可視化された個人や集団同士がつながっていくことなども驚くほど容易になったのです。
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