また同書では、「財が売り買いされる市場という制度が非常に有効であるものならば、なぜ労働者は直接市場で自分の労働力を売ったり、他人の労働力を買ったりしないのか」という問いかけをし、それに対して米国の経済学者ロナルド・H・コースの論文「企業の本質」(※4)に書かれている説を紹介しています。
コースはこの中で、労働者は組織による監督なしに市場の中で互いにコミュニケートでき、自分の労働力を売ること、または他の労働力を買うことが可能であることを示している。だが一方で完全に開かれた労働市場は、その組織活動コスト、特に選択肢を見つけるための努力や仲間同士との合意とその実施のためのコストの面で、企業にかなわないという。先ほどの映画の例のように、仕事に関わる人々の数が増えれば増えるほど、話し合って合意しなければならない事項も増え、組織活動のコストは上昇する。
しかし、SNSの登場により、この状況に変革が訪れていることが本書では明らかにされていきます。
先の「バカバカしいほどの集団化の容易さ」のことを思い出してください。そう、これまで「それを実施するには手間がかかり過ぎる」という理由で行われなかった直接の取引が、インターネットによって「誕生パーティを開くような手軽さで、幾つかの国にまたがるグループを組織する」(シャーキー同書)ことで可能になったのです。
この発想から登場したのが「クラウドソーシング(crowdsourcing)」です。クラウドソーシングとは「かつては従業員が行なっていた機能を引き受け、それを不特定の(たいていは多くの)人々のネットワークに公募の形で外注する企業や組織の行為」(※5)であり、広義には「企業活動を開発するために人々(crowd)からアイデア、フィードバック、解決法を得ること」(※6)の総称です。
専門性のある仕事を組織内ではなく、外部の組織に発注する「アウトソーシング」という言葉がありますが、「クラウドソーシング」はその仕事をそれまで取引があるわけではない個人に、多くは専門のインターネット・プラットフォームを通じて発注していくという新しい雇用形態の1つと言えます。
ここまでに本書で引用したものも含め、多くの論文・書籍のなかで、クラウドファンディングはこのクラウドソーシングに含まれる概念の一部であると述べられています。
先に、企業活動を開発するために「人々からアイデア、フィードバック、解決法を得ること」と書きましたが、「アイデア、フィードバック、解決法」が、クラウドファンディングの場合は「資金」ということになります。
クラウドソーシングが発生し、浸透したのは「実施するには手間がかかり過ぎる直接の取引」がインターネットの普及によって容易になったためと書きましたが、クラウドファンディングも同様です。従来は資金調達を希望する者が、「少額ずつ資金を提供してくれる人やグループ」に出会うチャンスは限られており、また彼ら1人ひとりを説得することにはたいへんな手間がかかりました。しかし、SNSで人々がつながる時代、それが容易になったのです。これが、クラウドファンディングが現在改めて注目を浴びている理由の1つです。
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