本連載は、山本純子著、書籍『入門クラウドファンディング』(日本実業出版社刊)から一部抜粋、編集しています。
本書は国内外の諸事情に通じた気鋭のコンサルタントによるわが国初となる「クラウドファンディング」の本格的な入門書です。
不特定多数の人たちをフォロワーに変え、資金を提供してもらいプロジェクトを実現する仕組み――それがクラウドファンディング。クラウドファンディングが大きな注目を集める“本当の理由”とは? 単なる資金調達の手段を超えてプロジェクトの進め方を大きく変える、新しい“おカネの集め方”です。
キックスターターといった世界最大のプラットフォーム、莫大な資金調達をクリアしたプロジェクト、世界的映画監督が仕掛けたプロジェクトに対するさまざまな議論の応酬など、興味深いエピソードも満載。起業家(予備軍)やベンチャー経営者のみならず、一般企業の経営者必読の1冊です!
一般の人々から広く金銭を集める、こういった資金調達手法は決して新しいものではありません。むしろ、古くからあるやり方です。
日本であれば、歌舞伎の演目名になっていることでも有名な「勧進」がクラウドファンディングの古い例として挙げられます。
勧進とは僧侶が寺院や仏像を造るために人々から寄付を募る行為です。12世紀(鎌倉時代)には、焼失した東大寺を復興するために、重源(ちょうげん)という僧侶がさまざまな技能や職能をもつ人たちを集めて資金調達の専門家兼職能集団を作り、一般の人々から寄付を募る勧進を行っています(※1)。以降、勧進は一般的になわれるようになり、現在でも寺院に行くと、寄付した人たちの名前と寄付額が書かれた木札や提灯などが飾られていますが、それはこの時代からの風習です。
また世界に目を移しても、例えば19世紀、米国ニューヨーク州に自由の女神像を建てる際に台座分の資金が足りなくなり、「世界の新聞王」として知られるジョーゼフ・ピューリツァーが自身の新聞『ニューヨーク・ワールド(New York World)』で市民に対して寄付を呼びかけています。その結果、12万人以上から10万ドル以上を集めたと言いますから、これも立派なクラウドファンディングです(※2)。
90年代後半からは、インターネットを利用した一般からの資金調達の事例が生まれています。この背景には、インターネットおよびパーソナル・コンピューターの普及と、それに伴うオンライン決済システムの発展があります。これによって、世界中の人々から資金を提供してもらうことが、技術的に可能になりました。
当時実施された、現在につながるクラウドファンディング・キャンペーンの“走り”としてよく引き合いに出される事例があります。
97年にイギリスのプログレッシブ・ロック・バンド「マリリオン(Marillion)」のファンによって実施された資金集めです。マリリオンは82年にメジャー・デビューしたロック・バンドで商業的にも一定の評価を受けたようですが、時代的にはすでにプログレッシブ・ロックは下火。90年代後半には、それまで所属していたメジャー・レーベルからも契約を打ち切られてしまいます。経済的に苦境に立たされたマリリオンは、97年に世界ツアーを計画しますが、資金難で米国公演を断念せざるを得なくなりました。
そこで立ち上がったのが米国のマリリオンのファンです。彼らは当時普及し始めていたインターネットを利用して全国のファンに呼びかけ、バンドの渡航費用を集める行動に出ます。その結果、彼らは見事に約6万ドルを集め、マリリオンは無事にツアーを実現することができました(※3)。
ちなみに、インターネット業界において97年がどういう時代だったかというと、94年に「ヤフー(Yahoo!)」「アマゾン(Amazon)」「イーベイ(eBay)」が登場したばかりで、まだ「グーグル(Google)」も「ペイパル(Paypal)」も誕生していませんでした(グーグル創業は98年、ペイパルは99年)。そのような時代の話です。
まさに、インターネットが人々の必需品となる初期に誕生した、インターネットを介したクラウドファンディングの一例と言えるでしょう。その後も、特に大きな資金が必要となる映画制作の分野を中心に、クラウドファンディングの活用が始まります。
(つづく)
山本純子(やまもと・じゅんこ)
株式会社アーツ・マーケティング代表。1997年、慶応義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。
大学在学時よりゲーム業界に携わり、主にオンライン・ゲームのマーケティング、調達、事業開発等に従事。
2009年、慶応義塾大学大学院アート・マネジメント分野修士課程に入学。同年末にITの力で芸術を広めるために(株)アーツ・マーケティングを創業。
2011年、修士課程修了後よりクラウドファンディングの研究を始め、慶応義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、現在、企画・コンサルティング・事業開発、および講演・レクチャー等に取り組む。
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