日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
「ウォシュレット」の勢いが止まらない。
といってもお尻を洗浄する水の話ではなく、成田空港内トイレの設置率のことだ。
成田国際空港株式会社(NAA)によると、空港内のウォシュレットの設置状況は国内線の第1ターミナルが34%、第2が37%と3割程度に過ぎないのだが、これを9月末までに100%にするんだとか。一足先にLCC(格安航空会社)向けの第3ターミナルが100%になっているので、これに合わせる形にしたのだ。
それだけではない。この“オールウォシュレット化”に先駆けて、4月中旬にはウォシュレットの「体験施設」がつくられる。といっても、その辺にサクッとディスプレイされるわけではない。広さ145平方メートルの敷地に、有名なイタリア人と英国人のデザイナーが設計したモダンな個室が10室つくられ、そのなかでウォシュレットはもちろん除菌や脱臭など、日本の先端技術でつくられたハイテクトイレが置かれるらしい。
それにしても、なぜ成田空港がここまで「ウォシュレット押し」なのか。
その理由はウォシュレットの登録商標をもち、日本の温水洗浄便座のパイオニアであるTOTOが今年の頭に出したある調査のなかにある。
日本在住の外国人600人を対象にアンケートしたところ、8割以上が「洋式トイレがいい」と回答したそうで、うち32%が理由に「ウォシュレット」を挙げたという(参照リンク)。それを踏まえてリリースのヘッダーには、『“おもてなしトイレ”は「洋式化」「操作性の向上」「ウォシュレット完備」から』なんて見出しが踊っていた。
もうお分かりだろう。日本は東京五輪へ向けて、訪日観光客を2020年までに2000万人に増やすという目標を掲げており、猫の手でも借りたいところだ。日本の玄関口である成田に、外国人の3割が絶賛するという「ウォシュレット」を置けば日本のプロモーションになるのではという「狙い」である。
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