なぜ成田空港が「ウォシュレット押し」なのか新連載・スピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2015年04月07日 08時08分 公開
[窪田順生ITmedia]

ブランドの下地づくりに邁進

 そんな米国よりもまだ望みがあるのが欧州だ。

 もともと「ビデ」というモノも浸透していたということもあるし、富裕層のなかにはトイレやバスルームをインテリアのように考える人々もいるので、日本のハイテクトイレにもさほど抵抗感がないのではないかというわけだ。これまで本格的なプロモーション活動もしていないという意味では、開拓しがいのある「フロンティア」である。

 そんな欧州市場の有望さをうかがわせるのが、TOTOが一昨年に始めたドイツの老舗の衛生陶器大手、ビレロイ&ボッホ(V&B)にOEM(他社のブランドを製造すること)供給である。米国や中国では自社での展開にこだわっていたTOTOがこのような方針をとったというのは、「ブランド」よりも「ウォシュレット普及」という「実」を取りにいったようにみえる。

 現在、フランスの五つ星ホテルで導入も果たしているというし、なかなか芽が出ない米国よりも欧州の富裕層を狙っていこうという強い思いが感じられる。成田空港に開設されるウォシュレットショールームをイタリアと英国のデザイナーが手がけているのも頷(うなず)けよう。

 だが、狙ったところでそう簡単に成功をするというものでもない。ウォシュレットの普及というのは「トイレ文化」を根底から変えるというハードルの高さがゆえ、想像以上に時間がかかるものなのだ。それを象徴するのが、中国人の「爆買」である。

 ご存じのように、中国人には日本のウォシュレットが大人気で、ラオックスやらの免税店では品薄状態になっている。買い求めた方たちのなかには、「宿泊したホテルで利用して便利だったから」なんてことをおっしゃっている人もいるようだが、そんな衝動買いをするのは少数派であり、以前コラムで炊飯器を例に出してお話をしたように日本のトレイが長い時間をかけて「高級ブランド」としての揺るぎない地位を築いていることが大きい。

 あまりそういうイメージがないかもしれないが、日本のトイレが中国進出を果たしたのはトヨタやら日産などと比べ物にならないほど古い。例えば、ウォシュレットの登録商標をもつ日本のトップメーカーTOTOが、北京の釣魚台国賓館(ちょうぎょだいこくひんかん)に衛生陶器を納入したのは、日中平和友好条約が締結された翌年の1979年。そこからすぐに高級ホテルやオフィスビルを中心に販路を広げ、まずはハイエンドマーケットへ向け、ブランドの下地づくりに邁進した。

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