架線柱倒れにトンネル白煙、相次ぐJR事故からビジネスマンが学ぶこと杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)

» 2015年04月17日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

失敗事例1:JR東日本の架線柱事故

 2015年4月12日早朝、JR東日本の山手線が走行する線路で架線柱が倒れた。原因は架線柱の更新工事だ。3月25日に古い架線柱と梁を撤去した。それらとバランスを取っていた古い架線柱が倒れた。柱は線路にかかっており、列車が踏めば脱線の危険があったという。列車が踏めば、という仮定は運転士さんに失礼な話で、発見次第ブレーキをかけると思う。むしろ、真横を通過中に倒れた場合を考えると深刻だ。

 さいわい隣の線路を走る京浜東北線の運転士が発見し、大事に至らずに済んだ。運転士は無線による防護システムを作動し、付近の列車をすべて停止させた。規則通りとは言え、良い仕事をした。運転士からの報告を受けて、その後の運転見合わせを決めた運転司令も良い仕事をした。……と、ここまではホウレンソウが機能している。

 私が問題だと思う部分は、この緊急停止以前に3回も架線柱の傾きが報告されていたにもかかわらず、緊急対処を行わなかった点だ。

JR東日本Webサイトに掲載されたお詫び。4月13日現在、これ以上の詳しい情報は掲載されていない(出典:JR東日本) JR東日本Webサイトに掲載されたお詫び。4月13日現在、これ以上の詳しい情報は掲載されていない(出典:JR東日本)

 1回目。4月10日に傾きが報告されていた。報告者は工事を担当する社員だったという。この報告を受けて、13日に撤去工事を手配している。これが危険性を予見できていたかどうかは、今後の調査と技術に詳しい方の見解を待つ必要がある。報告者には工事の経験や知識もあっただろうから、緊急性がないと判断できたかもしれない。

 2回目。11日夜に山手線の乗務員から傾いていると報告があった。これについては目視で確認しただけで対策を取らなかった。「13日に対策する予定だからいいだろう」という予断があった。なぜ目視だけで済ませたか。日航機墜落事故で有名になった金属疲労も考慮されたはずだ。非破壊検査を実施すべきではなかったか。

 3回目。12日午前4時50分に山手線の始発電車からも目視で傾きが確認されているという。これは乗務員の報告か、添乗した別の担当者かは報道されていない。いずれにしても、対策は取られなかった。もし危険性を認知していたら、撤去工事の繰り上げはできないとしても、補強したり、万が一倒れた場合に方向を矯正する仕組みを用意できたと思う。

 特に注目すべき点は、11日の山手線乗務員の報告を軽んじていることだ。乗務員は文字通り電車に乗っている。架線柱が倒れた場合は自分が危険にさらされる。その肌に感じた危機感を報告しているはずだ。それが無視された格好になっている。付近には1カ月前から上野東京ラインが開通しており、そこからの振動も影響しただろう。このあたりの線路の状況は3月14日のダイヤ改正から変わっていた。経験則には頼れないはずだ。

 余談だが、ネットでは12日に東海大地震が起きるというデマが広まっていた。このデマをJR東日本は知っていたか、知らなかったか。知っていたとしてもデマに左右されないという態度は正しい。しかし、このデマの背景には「いつ大地震が起きてもおかしくない」という危機感がある。その危機感をJR東日本は持っているか。

 「13日に手配」で本当に良かったか。緊急対応が必要な案件だ。まさか、緊急対応のマニュアルがないワケがない。

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