架線柱倒れにトンネル白煙、相次ぐJR事故からビジネスマンが学ぶこと杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2015年04月17日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

失敗例3:JR西日本の北陸新幹線給水ホース事故

 2015年3月31日に発生した「北陸新幹線給水ホース外し忘れ」は、北陸新幹線最初の事故として報道されたけれど、特に原因や対策が報じられていないようだ。翌日以降の続報もない。JR西日本のプレスリリースでは、原因について「給水作業をする係員の確認が不十分だったため」と記載されている。「誰かがうっかりミスしちゃったのね」という感じだ。担当者も反省しているだろうし、深く追求しても気の毒だ。うっかりミスは誰にでもある。

 もし、そんなふうに話が終わってしまったら、とんでもない話である。このミスは小さなミスかもしれない。しかし、今後、人命にかかわる事故につながるかもしれない。JR西日本には尼崎脱線事故という痛い教訓があったはずだ。安全にも細心の注意を払っていたはずだ。

 この事故について時系列で追ってみよう。該当する列車は金沢駅17時9分発の「かがやき532号」だ。報道によると「約40分後」の17時47分に乗客が異音を報告。「ほぼ同時」に金沢駅で給水作業を担当する会社から「ホースを付けたままにした」と報告があり、運転士が緊急停車して点検した。プレスリリースによると、異常が発見できなかったため、約30分後に運行を再開している。

 報道によると、給水ホースの長さは約3メートル。金沢駅の取水口に約50センチメートルのホースが残っており、富山駅方向へ約1キロメートル地点で、残りの2.5メートルのホースが見つかった。私の予想では、乗客が聞いた異音の正体は、車体の受水口のフタが開いたためのバタツキ音か風切り音だ。それを「異常なし」と言っていいかは分からない。その後、長野で車両を交換せず、無事に東京に到着したようだから、運転士の判断は正しかったと思いたい。

 この事故の問題点と「はらんでいた危険」は何か。まず、金沢駅から1キロメートル地点まで、列車が2.5メートルのホースを引きずっていたこと。金沢駅から1キロメートルの地点だと、発車から約1分後。列車は時速100キロメートルを超える。北陸新幹線のかがやきに使われる電車「W7系(JR西日本所有)」または「E7系(JR東日本所有)」は同じ性能で、起動加速度は1.6km/h/s。これは性能が最大のとき、1秒ごとに時速1.6キロメートルずつ上昇するという意味だ。

 それまでの1分間、列車は切れたホースを風圧で暴れさせたまま走った。暴れたから車体からもちぎれた。そのちぎれたホースに時速100キロメートルの勢いがある。これが防音壁に当たり、思わぬ方向に飛んでいったかもしれない。列車の窓ガラスは二重化され飛散防止も施されている。しかし床下機器に当たったらどうなるか。車輪が踏んだらどうか。線路外へ飛び出していたら、沿線の何に当たってしまったか。住宅が多いエリアである。

Google Mapsで金沢駅から約1キロメートル地点までを示した。この区間でホースをつないだまま列車が走った Google Mapsで金沢駅から約1キロメートル地点までを示した。この区間でホースをつないだまま列車が走った

 さらに、北陸新幹線の列車の長さと起動加速度から見積もって、「かがやき532号」が金沢駅のホームを完全に出るまでに、時速60キロメートルに達する。もちろんホースは付いたままだ。ホーム柵があるから乗客は無事だったとしても、給水作業をしていた人たちはホームの下だ。発車時は退避していたかもしれない。それでもちぎれたホースが狭い空間で跳ね返り、作業員に当たったら大けがだ。死に至らないとも限らない。

 これは大げさな話ではない。4月6日に東京都足立区のゴミ処理場で火災が起きたとき、動き出した消防車の放水ホースが外れて飛んだ。消防車と接続する金属部分が男性会社員に当たり頭蓋骨と足の骨折という大けがをした。北陸新幹線のホースの材質までは報じられていないけれど、時速60キロメートルに達したら、豆腐やコンニャクだって凶器ではないか。

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