“ブランド”ではなく“雰囲気”――無印良品の強みとは:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
1980年に始まり、徐々に支持を獲得してきた無印良品。幅広い世代の人気を集めているが、無印良品の魅力とは何なのだろうか。9月18日にリニューアルオープンした池袋西武店を訪問して、その理由を探った。
無印良品ってブランドですか?
さて、無印のウリといえば食品だ。池袋西武店の食品売り場も広い。レトルトも飲料もお菓子もずらり。値段はPBより高めなのに人気は根強い。なぜなのだろうか? PBも無印も原材料の安全性をうたい、包装簡素化も共通。もちろん味は好みがある(とはいえ個人的には無印の圧勝。値段が違うせいもあるが)。
大きな違いは“暮らしやすさ”のとらえ方だと思う。流通系PBのポイントはNB(ナショナルブランド、一流ブランド品)より安いこと。ゆえにNBの代用にしかならない。だが、無印良品では「暮らしやすい」がポイントになる。だから、NBにはない心地良さが生み出せる。
「家計にやさしい」からスタートするPB、「使用者や地球にやさしい」からスタートする無印。NB代用の延長線上からは、価格以上の価値は生まれにくい。だが、NBという定番の良さをさらに掘り下げて、“平凡な非凡”を生み出すのが無印だ。
片寄さんにズバリ聞いてみた、「無印ってブランドですか?」。彼女は一瞬、考え込んでからこう言った、「ん……、何とも言えないですね」
“暮らしの中の良品”で始まった無印がブランド化するのはおかしい。著名なデザイナーが商品開発にたずさわるのを公表しないのも、デザイナーズブランドではないから。でもムジラーの支持はありがたい。アンビバレントなところだ。じゃあ無印って何なのだろう?
ららぽーとで3店舗を比べた
取材の数日後、無印良品池袋西武店と同時期にオープンした「ららぽーと新三郷」に行った。そこではニトリ、Loft、IKEA、そして無印良品が勢揃い。IKEA大好きの私だが、ららぽーとの混雑で疲れ果てて今日はパス。残りの3店舗を歩いて比較した。
ニトリは人と家具で大にぎわい。どの商品も価格対品質の価値が高い。要はお得なのだ。それを知ってか、買い物客は「お得なものを見逃さないぞ」という顔つきの人が多い。一方Loftは深くてマニアな品揃え。文具マニアの宝箱だ。「自分が好きなモノではぶれない」態度の買い物客でいっぱいだ。ただ、両店ともに突き詰めると「こんな価格/品質でこんなモノがあるよ、どうですかあなた、買いませんか」「(頭のなかで計算機をたたいて)分かった、じゃあ買おうか」――買い手と売り手の間で、丁々発止のやりとりともいうべき店内コミュニケーションが成立している。
そんな両店から押し出されて、無印良品の店舗に入るとホッとした。ああここでなら息ができる。買い物客の顔つきが明らかにちがう。MUJIな人々は落ち着いている。「こういうモノ作りました、いかがですか」「いいわね」――そんなサイレント・コミュニケーションで店内が満ちている。
無印良品とは、ブランドというより“暮らしのアトモスフィア(雰囲気)”なのだ。水であり空気である。だから自分が“しぜん”になれる。すっかり私もムジラーとなってしまった。
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