インターポールに国際手配された日本人たち:銭形警部なんていない(2/2 ページ)
米国務省は「次のアルカイダ」のリーダーに8億円の懸賞金をかけた。しかし、彼は毎週のように集会を行っている。国際手配とはいったい何なのか。
国際手配は政府の思惑に過ぎない
インターポールや米国務省は、どうしてそんな無意味な国際手配を行うのか。ある国で罪となる犯罪を行い、その国が容疑者と特定した人物がすでに国外に出てしまった場合、インターポールに加盟している国は手配を要請できる。だが現実には、国際手配は政府の思惑によるアクションである場合が多い。
インターポールには捜査権も逮捕権もないため、彼らにできるのは、手配を行ってデータベース化し、捜査に協力をすることだけ。米政府の国際手配にしても、ほかの主権国家に勝手に乗り込んで捜査を行い、容疑者を逮捕することはできない。それでもインターポールや米国務省の手配で、容疑者の経済活動制限などが可能になり、海外への渡航なども大きく制限される。
もちろん親しい国家同士なら、捜査協力という手段もある。捜査・逮捕を要請し、犯罪人引渡条約を締結していれば、犯人を自国に移送し、自国で起訴する。ただ政治的・外交的な手続きや駆け引きなどが必要になってくるし、親しい国家同士でも、犯罪者に対する人権意識にも差異が生じる。摩擦のある国となら、その判断はさらに難しくなる。政治・外交の材料として利用できるケース以外、引き渡しは考えられないだろう。
国際結婚の親権トラブルは「誘拐罪」なのか?
イランや北朝鮮などは、米国人旅行者をスパイ容疑などで逮捕や拘束して、外交的な交渉に利用しようとする。大手リフォーム会社のケースでも、中国に駐在するある日本人ビジネスマンは、「今でも普通に売春は行われていますよ。日本人で利用している人は少なくないでしょう」と言う。「あの事件では、確かに多くの売春婦を手配したことが管理売春だと判断されたみたいですが、中国当局は事を大きくすることで反日感情を煽る意図があったとも考えられますね」。事実、事件後には中国のネットで反日の書き込みが溢れた。
海外では日本人にとって予想外の犯罪も少なくない。タイで国王を冒涜すると逮捕されるし、サウジアラビアで神を冒涜すれば死刑になることもある。シンガポールではゲイ同士の性交渉は違法だ。アメリカでは車に子供を残して買い物すれば警察に通報されるし、最近ではよく知られるようになったが、東南アジアで麻薬に手を出せば極刑になるケースもある。
インターポールの国際手配には、大手リフォーム会社以外にも、アメリカで国際結婚が破綻した後に自らの子供を一方的に日本に連れ帰ったことで誘拐容疑にかけられた日本人女性(47)など、国際離婚での親権トラブルで数名の女性が「誘拐罪」で手配されている。
パキスタンのサイード同様、彼女たちは少なくとも日本にいる限り逮捕されることはない。それでも心穏やかに暮らせないことは間違いないだろう。
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