ビジネスパーソンの副業と、教育コストは誰が負担するのか問題について:サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(3/3 ページ)
古き良き雇用システムが崩壊する中、収入の支えとして副業をしよう、さらに「自分の強みや専門性を生かした副業ならベター」と考える人が増えています。この事象、従業員側と企業側の両方に意見を聞くと、まったく見解が異なるよう。その理由は?
企業と、そこで働く人と就活と転職の複雑な関係
社内の人間の副業についてもモヤモヤしているが、それ以上に転職していく「元従業員」にもモヤモヤしているというのです。もっと正確に言えば、元従業員に向けられたものではなく、その従業員を受け入れる次の企業に対してのモヤモヤです。何もできない学生を新卒で採用して、きちんと教育をして一人前にすることを大切にしている企業がある一方で、そうやって「よそで育てられた人材」を採用することで(先の教育担当者に弁を借りると)教育コストをおさえている企業もあるし、なんとなくフリーライダーのような気がすると。
この話、書いている本人もモヤモヤしているくらいですから、読んでいる皆さんはもっとモヤモヤしているはずです。特に、先の教育担当者には言いたいことが山ほどあるのではないでしょうか。「それならそもそも教育しなければいいじゃないか」とか、「人材流出しないように策を講じればいいだろう」とか、「新卒採用をやめて、即戦力を中途採用をすれば?」とか、「魅力的な環境じゃないんだから人が離れるのは当たり前だし、そもそもそんなケチ臭いことをいうなよ」とか……。
しかし、複数の採用担当者や教育担当者にこの話をすると「全面的に同意はしませんが、気持ちは分かる部分もあります」というのです。人を育てるのにはコストがかかる、それを誰が負担するのか。ウチが負担して、それがすべて還ってくるのか? それは当然考えていますとの話。だから転職されればガッカリするし、そうならないための環境づくりは大切だと。フリーライダーのような企業の存在があるからといって、また、世の中がそういう時代になったからといって、社員への教育が不要だとは思わない。けれども正直を言えば、ときどき空しくなってしまうことがある、と。
ある採用担当者(教育担当者ではない人です)が、この一連の話について私とディスカッションしていたときに、とても印象的な言葉を口にしていました。「本業で得たノウハウを活用した副業を認めることによって、その職場に自分がいることが居心地いいと感じられるなら、それはそれで働く環境として良いということなのかもしれない。逆に、そういう部分に大らかになれない企業は、魅力的な職場を作ることは難しいし、魅力的な職場じゃないところへ有能な人材は集まってこないはずだ。モノは考えようじゃないですかね」と。「究極の話、入社して得たノウハウで腕試しをするために退社して、またノウハウを蓄積するために戻ってウチで仕事する、要は出戻り自由って企業ならば、面白い、かつ、優秀な人材が滞留する可能性もありますよね」
確かにそれはアリかもしれない、と編集長の吉岡綾乃さんと青山の路地裏にあるタイ料理屋さんでランチを取りながら話していると、彼女はポロッとこうつぶやきました。「確かに出戻り自由な企業は、そういう意味で魅力的かもしれないですね。でもねサカタさん、実はというのも変ですが、ウチの会社は出戻り社員がすごく多いんですよ。それはそれで複雑なものです……」。
働き方が多様化し、働くということへの価値観も一つではない、さらに企業の働く人への接し方もいろいろだ、という時代なのだなと、ガパオ(辛め)を食べながら、改めて感じた昼下がりだったのです。
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