iPhone好調は「追い風」――マイクロソフト 越川氏に聞く「Windows phoneの勝算」:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
iPhoneやAndroidケータイの登場で活気づくスマートフォン市場。マイクロソフトは今冬、生まれ変わった“Windows phone”を投入し、この市場でのシェア拡大を目指す。Windows phoneは、これまでのWindows Mobile端末とどこが違うのか、ほかのスマートフォンに対する優位性はどこにあるのか。マイクロソフト モバイルコミュニケーション本部長の越川慎司氏に聞いた。
アプリ/コンテンツ市場における優位性は
ITmedia アプリとコンテンツでコンシューマー市場を惹きつけようとしているのは、AppleのiPhone戦略も同じですね。
越川 ええ、これは王道ではあるのですが、やはりコンテンツの存在が(プラットフォームの成功には)重要なのです。例えば、最近の例で見ますと、「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」の大ヒットで電車の中でニンテンドーDSをプレイする女性が一気に増えました。モバイルの世界も同じことで、どれだけ質が高くて人気のでるキラーコンテンツやキラーサービスが用意できるかが、プラットフォームの成否を左右することになります。その点で、今後のスマートフォン市場の状況はゲーム業界に似てくるでしょう。
ITmedia 確かにiPhoneも、一般ユーザー層向けのゲームや電子書籍の増加が市場拡大の鍵になっていますし、サービス面では優良なTwitterクライアントが豊富にあることも、“Twitterの認知度向上とともにiPhoneが売れる”要因になっています。
越川 まさしくそのとおりです。ゲームをはじめとするキラーコンテンツやSNSやメールの使いやすさ、いかにクールに利用できるかといったところが重要になっているのです。例えばですけれど、ドラクエ(ドラゴンクエスト)やモンハン(モンスターハンター)のオリジナル作品がWindows phone向けに発売されれば、多くの人にWindowsというプラットフォームを意識させることなく訴求できます。
今後のオープンOSプラットフォームの世界は、そういったコンテンツの獲得合戦が重要になっていきます。
ITmedia しかし、例えばゲームでもいいのですけれど、一般ユーザー向けのアプリで勝負するとなると、AppleのApp Storeの方が現時点でリードしています。日本のゲームベンダーや各種コンテンツホルダーでも、App Storeの勢いに乗ろうという企業が増えている。そこでのWindows phoneの優位性はどこにあるのでしょうか。
越川 我々にはいくつかの優位性がありますが、その中でも大きいのが、マネタイズも含めた開発効率の高さです。
これはどういうことかといいますと、今後モバイル端末の性能が向上する中で、“モバイル向けにコンテンツを出しただけでは、よほど売れないと採算が合わない”という現実が背景にあります。これはゲームで顕著ですけれど、モバイル向けは今後競争が激しくなり、一方でタイトル同士の価格競争が激しい。大手ゲームベンダーが総力を挙げて開発して、モバイルだけで採算を取るのは難しくなっていくでしょう。この点において、我々マイクロソフトでは当初から3スクリーン戦略をとっており、Windows phoneとXbox、そしてPC向けタイトルを水平展開しやすい開発環境を構築しています。このようにモバイル単独ではなく、3スクリーンでのビジネス展開を前提にしますと、Windows phone向けというのは(ベンダーにとって)開発効率や生産性が高いのです。
ITmedia なるほど。確かにiPhoneのアプリやコンテンツ市場は価格競争が激しすぎて、ベンチャー企業や個人プログラマーによるダンピングも少なくありません。適正価格の維持が難しく、大手ゲームベンダーやコンテンツホルダーが「投資しにくい」一面があるのも事実です。
越川 ええ、ですから、(Windows phoneの)Marketplaceでは数を追求するのではなく、高品質なセレクトショップを目指します。いいゲーム、いいコンテンツが(玉石混淆の中に)埋もれないように工夫していきます。
今後はアプリの販売手数料を通信キャリアとレベニューシェアする仕組みを作り、キャリアがアプリやコンテンツを訴求しやすいビジネス的な環境も構築します。また、キャリア決済にも対応する計画ですので、クレジットカードや特別なプリペイドカードを使わなくても、アプリやデジタルコンテンツを気軽に買っていただけるようになります。
こういったクオリティ重視の姿勢をご評価いただき、例えばゲームですと、Xboxに参入している大手ゲームベンダーを中心にWindows phoneを支持していただく企業は増えています。今後のタイトル増加には手応えを感じています。
ITmedia 一方でグローバル展開という点ではいかがでしょうか。iPhoneではアプリのグローバル展開による、“規模のメリット”を強調していますが。
越川 グローバル展開も重視していますし、この部分も我々の強みになるでしょう。Windowsの3スクリーン戦略ではエコシステムをグローバルに展開していますし、ブランドプロモーションやコンテンツホルダーのビジネスを支援するスキームも持っています今回、発表させていただいた集英社の電子書籍などは、そうした(マイクロソフトの)海外事業サポートも評価していただいて、参入していただくことになりました。
ITmedia Windows Marketplace for Mobileはどのようなラインアップになるのでしょうか。
越川 オリジナルタイトルはもちろん用意したいと考えていますし、実際その方向で進んでいる話もありますが、スタート時点でクオリティの高いアプリを100個程度は用意したいですね。その中には、iPhoneやiアプリといったほかのプラットフォームから人気タイトルの移植もあると思います。その後は着実にアプリを増やしていき、来年は(10メガバイト以上の)大容量コンテンツにも対応します。MarketplaceのUIもかなりこだわって作りますので、ぜひ期待してください。
OSとしての進化、3つのポイント
ITmedia Windows phoneがコンテンツやエコシステムを重視する姿勢なのはわかりましたが、一方で、OSとしての進化も気になります。今回は6.5というマイナーバージョンアップとなりましたが、大きな変化というのはあったのでしょうか。
越川 OSレベルですと、6.5の機能強化ポイントは大きく3つあります。
1つは「UI(ユーザーインタフェース)」。これまでのWindows Mobileは指での操作もできましたが、設計思想がスタイラス利用前提のPDA時代のものを引きずっていました。しかし、6.5のWindows phoneでは、すべてのUIが「指での操作」を前提にしています。
2つめが「パフォーマンスの改善」です。全体的なソフトウェアの効率性を高めていまして、これは内部テストの結果ですが、バッテリー持続時間がOSレベルで20~30%の改善をしています。一方で動作速度も速くなっており、我々は「サックサック」と呼んでいるのですけれど(笑)、これまでよりも快適なスピードでお使いいただけると思います。これはWindows 7のコンセプトにも通じますが、“OSはシンプルさと快適なスピード”が大切だと考えています。6.5はそのコンセプトで作られていますし、今後のWindows phoneはその方向で進化させていきます。
そして3つめが基本的な部分なのですけれど、「Internet Explorer Mobile」の進化です。フルブラウザはスマートフォンにとってもっとも重要なアプリケーションだと考えていまして、Windows phone向けの新バージョンは『PCサイトの再現性の高さ』と『表示スピード』にこだわりました。特に前者では、モバイル系のフルブラウザーでは最も再現性が高いと自負しています。もちろん、Flashなどマルチメディア系の表現もきちんと再現します。
ITmedia かなり基本的な部分にわたって改善されていますね。
越川 ええ、今後のスマートフォンで重要な土台の部分はかなり搭載できました。
また、全体的に見ますと、端末の2年間の割賦販売が広がる中で、ドコモをはじめ各キャリアが「バージョンアップ」を認める方向に動いたことも追い風ですね。Windows phoneはじめスマートフォンは、OS部分のバージョンアップをすることで、『陳腐化しないモバイル端末』になりますので。
2010年は「広がり」と「準備」の年
ITmedia 2010年はWindows phoneにとって、どのような年を目指していますか。
越川 2010年というタイミングで考えますと、まずはWindows phoneというブランドを一般コンシューマー層に根付かせたい。アプリケーションとクラウドサービス連携の魅力とともに、多くの人にWindows phoneをご理解いただく年になるよう目指していきます。端末についてもポートフォリオを広げていきたいと考えていますので、全キャリア向けに多様なデバイスを、多くのメーカーに出していただけるように取り組んでいきます。
このように2010年は飛躍の年という一面がある一方で、インフラという観点では「準備の年」だと思っています。LTEを迎えるにあたってWindows phoneで何ができるのかと準備をし、2011年初頭にはしっかりと(LTE対応Windows phone端末という形で)花を咲かせたい。LTE時代が始まる際には、先頭集団でWindows phoneを出したいと考えています。
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