災害に対してケータイやスマホができること:小寺信良「ケータイの力学」
東日本大震災では、ケータイやスマートフォンを使ったソーシャルメディアの活用が注目を集めた。今後もITを生かした災害対策が進むと思われるが、一方で、ITやソーシャルメディアを使わない・使えない人たちとの情報格差も生まれつつある。
10月7日から8日にかけて、スキー場と温泉で知られる新潟県湯沢町にて「情報セキュリティワークショップ」が開催された。今年で11回目になるそうで、筆者は7日夜の車座会議の座長として呼ばれていった。
今回は「てのひらにセキュリティを!」というテーマで、スマートフォンの利用が進む中、どのようにセキュリティ対策していくのかを含めた講演も行なわれた。そしてソーシャルメディアの利用や問題点についても、多くの時間を割いて語られた。今回は筆者が座長を務めた車座会議での議論の中から、今後災害対策として考えられるケータイやスマホの役割についての話題をピックアップしてみたい。
情報格差が生死の境目に
今回の震災では、ITやソーシャルメディアが広く活用された事例が多く見られた。この成果に関しては、メディアジャーナリストの津田大介氏から詳しい講演があったが、同時に問題点としてピックアップされたのが、情報格差の深刻性である。
これまで情報弱者と言われてきた人たちは、「パソコンとか苦手で……」というレベルで済んでいたものだが、今後災害情報がITインフラを中心にもたらされるようになると、時として生死に関わる問題になりかねない点が指摘された。
この問題は、車座会議でも話題になった。情報弱者が社会的弱者とイコールになり始めている現状は、どこかの段階で誰かがカバーして行く必要がある。情報弱者に対して情報強者という存在を仮に定義するとして、この情報強者はIT機器を使って情報を“Pull”できる人である。どこに情報があっても誰かがそこにたどり着き、ソーシャルメディアを使って多くの人を誘導できる。
一方の情報弱者、例えばPCが苦手なお年寄りを想定すると、その人達に今からPCの使い方を教え、情報の検索方法を教育するのは難しいであろう。自分で情報をPullするより、情報を“Push”してやる仕組みが必要だ。これに関しては、すでに普及しているケータイのプッシュメールが役に立つ可能性が高い。例えば自治体に携帯電話番号やメールアドレスを預けることで、災害時にはそのルートを使って情報を強制的に流していく仕組みなども、検討すべきであろう。
災害時には避難所にネット回線とPCを設置する活動も見られたが、実質的にはPCが使える人ごと置いていかないと活用できないという現実もまた分かってきた。それならばタブレットのような端末に、銀行のATMレベルのインタフェースをかぶせて、本当に誰もが必要な情報にリーチできる仕掛けが必要だろう。
一つの可能性として、ウィルコムが12月に発売する「WX02A(イエデンワ)」のような発想はアリかもしれない。実質的にはケータイなのだが、使い慣れた固定電話のインタフェースを持っている。このように、表面的には旧来のインタフェースを持ちながら、実際に裏側ではIT技術が動いているような発想の転換が必要だ。
技術は使いよう
インストールしたスマートフォンの位置情報などを第三者が監視できるとして問題になった「カレログ」。初期バージョンはMcAfeeからスパイウェアとして認定されるなど物議を醸し出したが、これは技術の目的や使い道を誤ったからである。第三者が勝手に他人のスマートフォンにインストールし、本人の同意なく隠れてログを送信させるような使い方は、アウト判定が出て当然である。
しかしこの手の技術は、災害対策アプリとしての可能性を秘めている。例えば1人で遭難したような場合に、自分の位置を定期的にどこかに知らせる緊急ビーコンのようなアプリに転用可能だ。バッテリーを限りなく節約しながら、ソーシャルメディアに対して現在置かれている状態を発信し続け、救援を待つわけである。
このアプリを自分が起動することに関しては、問題は少ない。しかし情報弱者対応としては、第三者がリモートで起動して位置を確認するようなこともある程度必要かもしれない。ここまで踏み込んでしまうと、やってることは初期のカレログと変わりなくなってしまうので、緊急時のみに適用できる、なんらかの法整備を行なう必要があるだろう。
小寺信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia +Dモバイルでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。
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