ドコモが取り組む「新しいキャリア」の姿とは?――NTTドコモ 加藤社長に聞く:docomo IDがターニングポイント(3/3 ページ)
スマートフォンの普及期において市場が変化する中、NTTドコモはどこに軸足を置いていくのだろうか。“ツートップ”で話題を集めた夏モデルから、サービス、インフラに至るまで、代表取締役社長の加藤薫氏に聞いた。
お客様を混乱させず、愚直にインフラ品質向上に取り組む
―― ここ最近、他キャリアでさまざまな事象があって、ユーザーの「LTEインフラ」「エリア」に対する関心が高まっています。ドコモはLTEで他社を先行している立場ですが、あらためて、インフラやエリアに対するドコモの姿勢をお聞かせください。
加藤氏 まず、前提として大切なのは「お客様を混乱させてはならない」ということです。例えば、人口カバー率は、周波数の割り当てを受ける際に総務省に提出する事業計画で、長らく使われてきた各キャリア共通の指標でした。それが時代に合わなくなっているというのなら変えればいい。しかし、各キャリアがバラバラに指標を持ち出して、その算出根拠が分からないというのはよくない。お客様を混乱させてしまう。
―― 昨年KDDIが“実人口カバー率”という指標を持ち出しましたが、当初はその算出根拠を明示しませんでした。指標や調査手法に透明性がなく、曖昧な数字だけが一人歩きしてしまった。あのあたりからLTEのエリア競争が“おかしなこと”になってしまったと、私は考えています。
加藤氏 ドコモとしては、そういうお客様を混乱させるような数字だけの競争には乗りません。エリアというものは日々刻々と変化している生き物みたいなものですから、愚直に品質向上に努めていくしかありません。ですから、今年はLTEに集中投資をして基地局数を2倍にします。
その上で今後のことを考えますと、エリアのカバー率については全キャリアで(指標を)統一すべきところは統一すべきです。各キャリアが勝手にやるのがよくない。全事業者と総務省が共同で、お客様の方を向いて、透明性のある新しい統一指標を作るのが正しいでしょう。
―― ドコモとしては、統一指標の策定はウェルカムである、と。
加藤氏 もちろん、ウェルカムです。お客様を惑わせないように、同じテーブルで話し合うべきですね。
―― ドコモとしてのLTEへの取り組みとして、都市部を中心にインフラ品質を向上させていく一方で、今後は地方でのエリア拡大も重要になります。
加藤氏 それは我々も重視しています。これまでLTEのエリア展開では都市部から重点的に行っていましたが、LTE端末がここまで増えますと、当然ながら地方のお客様もLTEが快適に利用できるようにならないといけません。今年に入ってからは地方のLTEエリアを拡大していますし、高速化については地方を先行して勧めている地域もあります。
―― 最終的には、現行の3GエリアとLTEエリアがほぼ重なるようになるのでしょうか。
加藤氏 そうなると考えていただいて大丈夫です。今後のVoLTE導入を踏まえると、LTEエリアが限定的では意味がありませんからね。
全体的なLTEへのインフラ投資については、今年・来年と前倒しで積極的に行います。今年はFOMA (3G)からXi (LTE)への移行が進むターニングポイントですから、LTEに極端なまでに投資したい。ほかからまわせるお金があったら、すべてインフラ投資にまわすつもりでやっていきたい。
―― LTE-AdvancedやVoLTEへの取り組みは今後どのように行っていきますか。
加藤氏 LTE-Advanced、すなわち「本当の4G」サービスについては、2015年がひとつの目安だと考えています。VoLTEもすでに着手しており、準備を進めています。こちらはいち早く導入したいですね。
docomo IDの本格稼働で、ドコモは大きく変化する
―― ドコモは今年から来年にかけて、企業としての価値や位置づけが大きく変わりそうですね。
加藤氏 ええ。通信事業を中核にしつつ、総合的なサービス企業になっていきます。そのための基盤となるdocomo IDの仕組みは、もうすぐできあがります。これは(社長就任の時に掲げた)「七分でよしとせよ」ではダメですので、完璧なものを構築している。このdocomo IDが本格稼働した後には、OTTのレイヤーも含めて、さまざまなサービスが連携して新しいドコモの価値となっていくでしょう。
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