2016年は“次のMVNO”に向けた準備期間――IIJ島上純一氏に聞く、MVNOの未来:新春インタビュー(3/3 ページ)
MVNOが提供する、いわゆる「格安SIM」が、かつてないほど活況を呈した2015年。2016年以降のMVNOは、どのような道を歩んでいくのだろうか。インターネットイニシアティブ 取締役 CTO ネットワーク本部長 島上純一氏に話を聞いた。
差別化のカギを握る「パートナーとの協業」
―― MVNOの数が増えてきている中で、料金も3GBで1000円程度からと横並びになってきて、差別化が難しくなっているように感じています。日本の今のMVNO市場はどうご覧になっていますか。
島上氏 今のMVNO市場は、ドコモさんのL2(レイヤー2)接続の開放から始まっていると思います。帯域の中をどう使っていくのかをMVNOに任されたので、今までのMNOにはなかった料金プランが生まれ、MNOとは違ったサービスができました。それが、お客様にとって魅力のあるものだったから、ここまで広がったのだと思います。
L2接続で差別化できるところが少なくなってきているのは事実です。当然、安かろう悪かろうといった事業者は淘汰されていくでしょう。そういう観点でも、HLR/HSSの開放は、もう一段、MVNOのサービスを高度化する、あるいはバリエーションを増やすうえで重要な材料になると思っています。
―― IIJとしては、今の状態で差別化をどう図っていこうと考えていますか。
島上氏 そこはお客様の声を真摯(しんし)に受けて、お客様の求めているものを出していくという以外はありません。トラフィックは随時チューニングしていますが、そういったものはなかなか見えないですからね。「こういうことをやっています」という情報は「IIJmio meeting」でも公開しているものの、これからマスに向けて広がっていく中では、なかなか訴求しにくいと思います。
あとは、われわれがリーチできないお客様にリーチできるようなパートナーさん、あるいは、自社で何らかのブランドやサービスを組み合わせて販売できるパートナーさんと協業して、MVNOビジネス全体を発展させていくことは随時やっています。
―― パートナーとは、例えばどのようなところがあるのでしょうか。
島上氏 外向けに発表しているのは、ケーブルテレビ連盟ですね。今は「ケーブルスマホ」という形で、(IIJはMVNEとして)2015年から本格展開しています。ケーブルテレビさんは、窓口となる事務所を持たれています。そこで即日MNPの手続きをしたり、ケーブルテレビのサービスとセットにして販売したりするケースもあります。
パナソニックさんとは、最終製品を売るだけでなく、IoTやM2Mの分野でサービスにしていくときに、自由度の高い通信が欲しいという中で、われわれと一緒にやらせていただいています。
MVNOがさらにシェアを伸ばすために必要なこと
―― 格安SIMのシェアは携帯電話全体でもまだ2%ほどです。さらにシェアを伸ばすためには何が必要だとお考えでしょうか。
島上氏 携帯電話の2年契約で縛られている人がほとんどという中で、一気に上がることはないと思います。違約金を払ってまで(格安SIMを)契約する方はなかなかいないでしょう。今の線形の伸びになると思いますけど、指数関数(的な増加)まではまだ行っていません。一方で、2~4月や9~10月など、動く時期は決まっています。こうした時期に過去と比べて伸びていることを考えると、着実に成長していると感じています。
ドコモさんが、2016年度にはAPIの開放をするとおっしゃっているので、それでまた便利になる。また、2017年にHLR/HSSが開放されて使いやすくなってくれば、またそこでサービスが高度化していき、着実にシェアが上がっていくと期待しています。
―― IIJさんは法人向けにはKDDIのデータ通信サービスを提供していますが、2016年に、個人向けでドコモとKDDIのマルチキャリアサービスを展開する可能性はあるのでしょうか。
島上氏 検討はしていきたいですね。今はMVNOのサービスを提供できているのは(ドコモとKDDIの)2社(回線)だけですから。
―― 2020年の東京オリンピックに向けての政策として、訪日外国人向けにプリペイドSIM「Japan Travel SIM」を提供しています。また、ほかの事業者にもJapan Travel SIMを卸しています。このあたりの取り組みも今後強化していくのでしょうか。
島上氏 12月21日に、観光庁が訪日外国人の通信環境を改善するためのキャンペーン「Japan Mobile Week」を打ち出しました。観光庁はこれまで無料Wi-Fiを推進してきたのですが、プリペイド型のSIMと、レンタルWi-Fiルーターも盛り上げてほしいと言っていて、うちも協賛しているんですよ。
Japan Travel SIMは毎月順調に販売数を伸ばしています。今、旅行中にスマートフォンは手放せないですよね。SNS全盛だから、日本の文化・伝統に触れていただいて、その感動をその場で拡散していただく。そういうことに貢献できるので、訪日外国人向けのSIMを提供することにはやりがいを感じています。
―― 2020年に向けて、MVNOはどのように発展していくのでしょうか。
島上氏 2020年に向けてはLTEの拡張や5Gがあるので、MVNOの姿が変わるのか? そこはきちんと見極めて、次の手を打っていきたいと思います。特に、IoTやM2Mはこれまでそれほど存在感を出せていません。われわれはITの総合プロバイダーで、クラウド事業もやっていますので、それらを含めた取り組みも強化していきます。「MVNO=格安SIMではない」と常に言っています。格安SIM自体は今非常に伸びていますけど、もっと違うところを、まだまだ攻められると思っています。
―― 最後に、2016年に向けてのメッセージをお願いします。
島上氏 利用者の皆さんに支えられてここまで来ました。これからも、お客様に使っていただけるようなサービスを作っていくことを一番に考えています。さらには、“次のMVNO”の姿に向けた仕込みを、ぜひやっていきたいと思います。
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