カナダにみるNFCとモバイルペイメントの最新事情――北米は業界トレンドのリーダーになれるか?(3/3 ページ)
日本では当たり前になりつつある「おサイフケータイ」だが、海外では国によって利用できるサービスや規格などが大きく異なる。今回はカナダのオンタリオ州政府の招待により、トロント周辺エリアでNFC/モバイルペイメント技術に取り組む各社と、現地での最新事情を取材した。
スマートデバイス時代を見据えたPOSの変革
Squareライクなスマートフォン決済システムの「PAYD」をデモするMoneris SolutionsのCSMO(Chief Sales and Marketing Officer)のJeff Guthrie氏
今回のカナダツアーで筆者の印象に残っているのが、モバイルPOSに関する最新トレンドだ。POSや決済端末に関連する企業として、MonerisとIngenicoの2社をまわったが、そこでiPhoneやAndroid、タブレット端末向けの新しい決済ターミナルを紹介された。スマートフォンやタブレットにカードリーダー用の装置を取り付けてPOSレジ代わりに利用するソリューションは「Square」のものが有名だが、それ以外にも米国では「PayPal Here」があり、日本では「Coiney」や「楽天スマートペイ」などのソリューションがある。
今回まわったMonerisでも、マイクロマーチャント向けソリューションとして「PAYD」という製品を紹介していた。だが、これらは磁気カードでの利用を想定しており、あくまで「手軽さ」を主眼に入れている。EMVやデビットなど、より高いセキュリティレベルを求められる決済のために、専用ジャケットを開発してiPhoneに装着するソリューションも最近では見られるようになった。ジャケットに非接触決済やEMV用の専用セキュリティチップが搭載されており、決済サーバ側には暗号化された状態でデータ送受信が行われるため、より安全性が高いというわけだ。
業界大手であるIngenicoの決済ターミナルは、あちこちで利用されている。これは市内のMcDonald's店舗に設置されたIngenico端末(決済ネットワークはMoneris)。画面には表示が出ていないが、決済タイミングになると液晶部分にタッチを促すアイコンが表示される
だがスマートデバイスの世界はトレンドの移り変わりが激しく、わずか1〜2年前にリリースされた最新製品が陳腐化してしまい、場合によっては再入手が困難なケースさえある。当然モデルごとに端末の形状や機能も刷新されるため、専用ジャケットや装着型のソリューションでは、それよりはるかに機器更新サイクルの長いPOSの世界でさまざまな不都合が生じる。そこで「一定のセキュリティレベルを維持しつつ、デバイスの頻繁な更新に対応」するため、決済用の装置とスマートデバイスを分離してしまい、両者はBluetooth(Bluetooth Low Energy:BLE)で接続することで、あらゆる機器との将来的な相互接続を担保していこうというのが、来年2014年以降のトレンドとなりそうだ。
具体的には、磁気カード、赤外線リーダー、EMV対応のチップ読み取り機とキーパッド、NFC決済用の非接触タッチ領域といった機能を詰め込んだBLE通信機器と、POSとしての会計や在庫管理、サイン機能、クラウド上のPOSサービスとの通信を担うスマートフォン/タブレットのスマートデバイスという形で、完全に役割を分担してしまう。現在は磁気カードの読み取りのみに対応したSquareだが、将来的には法令に定めるセキュリティ対応のため、いずれはEMV等の規格をサポートしなければならない時期が到来する。そのとき、現在の四角い小型のカードリーダーをイヤフォンジャックに挿入するのではなく、BLE接続の決済用ターミナルを別途用意するのではないかと推測する。
Monerisでも、Square型の決済サービスの可能性について模索していると説明しているほか、Ingenicoでは実際に前述のBLEを使った分離型の決済装置のデモストレーションを紹介している。Ingenicoはフランスを拠点にする企業で、POS関連の決済ターミナル開発で著名だ。世界的には米国のVerifoneとシェア争いを繰り広げており、特に欧州を移動しているとIngenicoのターミナルを導入した小売店が多いことに気付くだろう。
カナダではBLE対応の分離型ターミナルを紹介したのみだったが、11月に本拠地であるフランスのパリで開催された「Cartes 2013」では、プリンタを内蔵したバージョンや、別途Bluetooth経由で接続されたプリンタにレシートを印字するデモを披露している。フランスでは法令で紙のレシートを用意することが義務化されており、Cartesのデモではプリンタとの連携をあえて強調したとみられる。
フランスのパリで11月後半に開催されたCartes 2013に展示されていたIngenicoの決済ターミナル。基本的にはトロントで同社現地法人がデモしていた製品と同じだが、Bluetoothによりリモートプリンタへの印字が可能な点をアピールしている。左側のシルバー色の端末は、独立タイプの決済ターミナルにプリンタを内蔵したもの
今後NFCトレンドをリードするのは北米とアジア
NFC対応において、日本と香港を除く地域別にみれば、NokiaやNXP Semiconductorsといった有力な地元企業がいたこともあり、公共インフラへの展開もモバイルへの搭載も、欧州が最も取り組みが早かった。だが諸般の事情により、その後の欧州での拡大は非常に限られており、NFCによる公共サービスを前面に押し出した2012年のオリンピックを開催したロンドンにおいても不十分で、利用率でいえばむしろ後からインフラが一気に展開されたポーランドなどの東欧地域のほうがNFC利用が進んでいるといった情勢だ。
一方で出遅れる形となった北米では、今回のカナダをはじめ、米国では大手リテーラーを中心に急速にNFC対応POSの普及が進んでおり、2013年末にはついにISIS WalletやRogers Walletという形で全国規模のモバイルウォレットサービスがスタートした。当面、利用率は低い状態を推移することになると思われるが、インフラ整備が次々と進むことで、物理的なICカードを含む、非接触決済の利用者は増えてくることだろう。
後進だったアジア太平洋地域でも、主に政府のバックアップを頼りにインフラ整備の中でNFC対応サービスが次々と立ち上がっており、中国においては銀聯カード(China UnionPay)がNFCでの利用拡大を模索している。先行した欧州よりむしろ、北米やアジアの方がNFC利用が一気に拡大しそうな勢いだ。特に北米はIT関係ではトレンド発信基地としての機能も備えており、今後を見据えた面白いサービスや技術が次々と登場することだろう。NFCとモバイルペイメントだけに限定しても、今後1〜2年継続的にウォッチしているだけで、いろいろ面白いものが見えてくるはずだ。
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