“ウルトラローコスト”が世界を変える――MozillaのCOOが「Firefox OS」のビジョンを語る:Mobile Asia Expo 2014
インドに25ドルのFirefox OSスマートフォンの投入を発表するなど、モバイル戦略の拡大を勧めているMozilla。今後はどのようなビジョンでFirefox OSを展開していくのか? COOのリー・コン氏が語った。
中国上海で開催中の「Mobile Asia Expo 2014」で、MozillaのCOO、Li Gong(リー・コン)氏が6月12日のカンファレンスに登壇し、Mozillaが進めるオープンなモバイルOS「Firefox OS」の取り組みについて語った。Mozillaは会期中、25ドルのFirefox OSスマートフォン向けターンキーソリューション(端末開発に必要な、ハードとソフトを統合したソリューション。すぐに出荷できるよう、ほぼ完成した状態で納品される)の提供を開始し、インド市場へ参入することも発表するなど、モバイル戦略をさらに一歩進めた。
リー氏は2014年4月にCOOに就任し、現在Mozillaが中国と台湾に持つ子会社のCEOも兼任している。Mozillaには2005年に入社したベテランだ。同氏は、Firefox OS開発に至った背景とMozillaのビジョンを中心に語った。Firefox OSは、Mozillaの歴史抜きには語れない。オープンソースのWebブラウザ「Firefox」を開発するMozillaは、Microsoftの「Internet Explorer(IE)」の独占状態を変えることを使命に立ち上がった。非営利団体のMozilla Foundationが会社組織のMozillaを子会社に持つというユニークな形態を取る。そのため、「営利よりも課題解決」(リー氏)という難しいミッションを掲げられるという。
「Mozillaがスタートした当初、インターネットはデスクトップのみだった」とリー氏は振り返る。インターネットにあるコンテンツにアクセスするのに重要なWebブラウザは、OSとの抱き合わせが奏功したMicrosoftのIEが95%のシェアを持ち、まさに寡占状態にあった。「全員がIEに縛り付けられていた」とリー氏。ブラウザ市場市場に競争はなく、MicrosoftはIEへの投資は不要と判断して部門を閉鎖してしまったという。
Mozillaはそんな状況を変えるべく登場した。オープンソースモデルで「Firefox」を開発しただけでなく、コミュニティを重視したローンチなどでインターネットユーザーを引き付けた。「シェアは3割に達した。ブラウザ市場の流れを変えることができた」とリー氏は手応えを話す。
その後、Googleが「Chrome」を開発し、最近ではAppleの「Safari」も利用者を増やしている(なお、先にAdobeの調査部門が発表したデータではGoogle ChromeはIEを押さえて初めて首位に立っている)。ブラウザ市場に再び競争が生まれた。Firefox/Mozillaがもたらした効果はこれだけではない。各ブラウザによるHTML標準の採用も進み、ユーザーと開発者にはさらなる朗報となった。
Firefox OS開発も同じ流れだ。「数年前からインターネットはPC一辺倒からモバイルへシフトを始めた。そこで、歴史が再び繰り返しつつあるのを実感した」とリー氏。言うまでもなく、iOSのAppleとAndroidのGoogleによる2極独占だ。ユーザー、開発者、メーカー、オペレーターと業界全体にとって「選択肢は少なくなり、2社がコンテンツの流通や課金などのルールを決めている」とリー氏は問題を指摘した。
このような状況を目の当たりにして、Mozillaは再び立ち上がった。そこで登場したのがFirefox OSだ。2013年2月の「Mobile World Congress」で正式にローンチ、同年7月に最初の端末(「ZTE Open」)がオペレーター(Telefonica)から登場した。「ローンチから1年の間で、OEMは4社、オペレーターは5社、提供市場は15カ国に拡大した」とリー氏は胸を張る。
業界の支持を集めている理由は、「Mozillaがやろうとしていることは、自社たちだけの利益を目的としたOS構築ではない。我々は選択肢を与える。さまざまな企業や団体が参加できる新しいエコシステムを構築する」とリー氏は分析する。ソースコードだけではなく、スケジュールや開発計画もすべてオープンにしているとリー氏は言う。
AppleやGoogleとは異なる「オープン性」というビジネスメリットだけではない。リー氏は技術優位性も強調する。「Firefox OSはピュアなWeb技術でできており、軽量。低スペックな端末でも動く」。モバイルで重要なアプリケーションのエコシステムについては、「アプリケーションはすでにある」とリー氏は言う。「我々はアプリという点では新しいエコシステムかもしれない。だが、HTML5ベースなので最大のエコシステムがすでにできている」(リー氏)
リー氏は最後に、今後の計画について語った。Mozillaは2014年、いよいよインド市場に参入する。それにあたり、まず2月のMWCで、中国ファブレス半導体企業のSpreadtrumが25ドル(約2551円)のFirefox OSスマートフォンのターンキーソリューションを提供したことを発表した。SpreadtrumはインドのIntexとSpiceのモバイル端末ブランド2社と提携し、2社が数カ月内でFirefox OSスマートフォンをインドに投入するという。このような「ウルトラローコストのFirefox OSスマートフォン」は、東南アジア、そのほかの市場のプリペイド端末としても訴求できると見通しを語った。Mozillaはまた、台湾最大のオペレーターであるChunghwa Telecomとの提携も発表している。
リー氏はSpreadtrumのターンキーソリューションを採用したFirefox OSスマートフォンを手にしながら、「ウルトラローコストソリューションによって、(まだスマホを手にしていない)次の20億人がモバイルインターネットの世界に入ることを加速させる」と述べる。これは、インターネットを皆の手にもたらすことで、人々の生活が変わり、社会にインパクトを与える――というMozillaの信念にもつながる、とリー氏は締めくくった。
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