小寺信良
コンシューマービデオカメラの表現はどこを目指すべきか(2/3 ページ)
手本を間違えたか
デジカメがフィルムカメラのあり方を指向した時点で、ユーザーもメーカーも、意識と市場の変革が行なわれたことはすでに述べた。ではコンシューマーのビデオカメラというのは、これまで何を目指してきたのか。
答えは、どうも放送用ビデオカメラではないかと思う。デジタル記録のDVカメラの誕生により、コンシューマーのビデオカメラは、これまでのアナログ記録に比べて格段に画質がアップした。放送コンテンツ制作の中にも、DVカメラは徐々に取り入れられるようになっていった。それがゆえに、コンシューマーのビデオカメラの目標は、放送用ビデオカメラに匹敵する画質を目指したものと思われる。
動画が撮影できるカメラとしては、映画撮影で使われるフィルムカメラのほうが歴史が長いわけだが、あとで生まれたビデオカメラというのは、それを模したものではない。むしろフィルムカメラにはない表現と利便性を模索したものである。
つまり現像が不要で、そのまま放送に乗せられることが大きかった。のちにビデオテープへ記録することができるようになったが、元々はカメラで捉えた映像がそのまますぐに電波に乗せられるというところから、当然放送用ビデオカメラは、よりリアリティを追求する方向へ進化することとなったわけである。
その最たる要素が、筆者はフレームレートではないかと思っている。放送は1秒30コマだと思っている人も多いと思うが、実際にはインターレースなので、時間的な分解能という意味では1秒間に60コマである。これによって表現できるのは、まるでその現場にいるかのような生々しい動きだ。
そしてこれは、遠く離れた場所で見ていても、今現在行なわれている現実であると認識させる点で、絶大な効果を発揮する。そして映像はウソをつかない、と思わせるだけのリアリティを持たせるためには、この1/60という時間解像度は、必要条件なのである。
だがコンシューマーのビデオカメラで、それだけの時間的分解能は本当に必要だろうか。放送で求められる映像と、コンシューマーで求められる映像では、自ずと目的が違う。放送は伝えるためであり、コンシューマーはそのほとんどが、思い出を残すためであろう。
思い出とはすなわち、脳の記憶である。脳の中にもビデオカメラのようにそのシーンが刻まれ、時間軸的にリニアではないが、状況を再生することができる。だがその記憶の中の映像は、どれほどリアルだろうか。
ビデオカメラで撮影することが、思い出の外部記憶であるとするならば、その映像は極力脳内の映像と同じであることが望ましいと考えるのは、自然なことである。そしてそのアプローチは、まず「色」から始まっている。
おそらく最初にそのようなことを始めたのはデジカメだと思うが、ビデオカメラでも最近は「記憶色」の表現に執心している。これはつまり、ビデオテープに記録された色が例え真実だったとしても、記憶の中では違う色になっている、というところに立脚している。早い話、あとでビデオを見直すと、「あれ、これこんな色だっけ?」と思う頻度がそれだけ多かったということであろう。
記憶の中の色がどのように変化するのかは、まだすべてが解明されているわけではない。曖昧な色はそれに近い色に単純化されるのかもしれないし、印象に残った色だけ発色が増すのかもしれない。だがこれらの謎は、地道な実験と研究によって、徐々に解明されていくだろう。
記憶に近づけるというアプローチの中で、これまでまったくアンタッチャブルであったのが、時間的解像度、つまり秒何コマという部分だ。静止画と動画の決定的な違いは、時間軸があるかどうかなわけだが、ビデオカメラはこの時間軸表現に関して、これまでまったく手を打ってこなかった。
次ページ「変わりつつある時間軸表現」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
パナソニックHD子会社、使用禁止の生成AIに従業員約33万人分の個人情報をアップロード
-
2
PHP脆弱性でいち早くサービス停止したコドモン 背景に「被害が出てからでは取り消せない」
-
3
AIに200万円渡してネットショップを1年運営させてみた──Alibabaの研究者らがシミュレーション 資産14倍の例も
-
4
人に注射を打てる「サイボーグゴキブリ」の群れが、がれき下の被災者を救助? 実験成功率72%
-
5
「お名前.com」 のFX自動売買VPS、不正アクセスで金銭被害か 「600万円の損失」「55万円なくなった」……報告相次ぐ
-
6
高市総理、サイバーセキュリティの本を出していた しかも“PHP”から
-
7
「AIでエンジニア派遣は不要になる」のか? 各社に肌感を聞いた 求められる人材、明確に変化
-
8
タイムズカー、3000円の見舞金支払いへ 免許証画像漏えいの146万件対象 55億円の特損計上
-
9
1000万のWebサイトで「生きたAPIキー」が大量に“丸見え”状態? 大手銀行やインフラの鍵も 米スタンフォード大などが調査
-
10
「Claude Mythos 5」、危害の兆候を顧みず実在の開発者を標的に──AnthropicとAISIが分析結果を公開
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR