分かりにくいけれど面白いモノたち
「バッグを持ち歩かない人のバッグ」に込めたアイデアとは デザイナー・秋田道夫さんに聞く(1/3 ページ)
LED式の薄型信号機からJRの駅にある“Suicaチャージ機”、果ては湯飲みやカラトリーまで、多くの人が目にする製品を手掛けてきた著名プロダクトデザイナーの秋田道夫氏。Twitterでは10万人ものフォロワーがいて、“最もバズるプロダクトデザイナー”などと呼ばれることもある。そんな秋田氏が、大阪のカバンメーカー・トライオンとのコラボレーションで作ったバッグ「Nothing」は、そのシンプルな見た目とは裏腹に、中々に複雑な内容を含んでいた。
見た目は、いわゆるブリーフケースだ。ただ、上部は開いているし、外側に留め具やポケットなども一切ない。ハンドルも内側から出しているので、表は真っ平らな革だ。構造としてはトートバッグに近いし、A3くらいのボディサイズで総革なのに重さが約750gしかないというのは、ブリーフケースではまず考えられない。
しかも、ピンと張った板のようにも見える革の硬質なイメージと、実際に触った時のソフトな触感のギャップがかなり大きい。この、固そうに見えて実は柔らかい、秋田氏が名付けた「かたやわらかい」感じこそが、このバッグの最大の特長であり、このバッグの最も面白くも新しい部分なのだ。
「最初に考えたのは、2枚の革の壁が立っているようなトートバッグでした」と秋田道夫氏。トライオンとのコラボレーションの話が持ち上がる以前から、秋田氏が温めていたアイディアであり、このプロダクトもそこから始まった。
面白いのは、トライオンがずっと作り続けていたビジネス向きのブリーフケースもまた、基本的にはポケットなどがないシンプルなデザインの、革だけが縫い合わされたようなデザインだったこと。ただ、それは明らかにビジネスバッグであり、決して「かたやわらかく」はない。書類やPCなども入れてラフに使われるバッグなのだから、ソフトブリーフとは云え、スクエアなデザインのものは、それなりに角などがしっかりと補強され、端が足にぶつかったりすればちゃんと痛い。
ところがこの「Nothing」は、足に当たっても革の方がグニャッと曲がるので、痛くないのだ。しかし、このバッグ、グニャグニャなのに、中身が空の状態でも自立するのだ。だからこそ、ピンと張った緊張感のあるルックスになっている。
この張り感とエッジの緊張感が、柔らかさと同居しているバッグというコンセプトは、実はいわゆるブラウンバッグと呼ばれる、デパートなどで使われる把手付きの紙袋に近いものだ。あの張り感は、柔らかいけれどエッジが立っている「紙」という素材の特長あってのもの。それを革、しかも柔らかい革で実現したというのが、このバッグの特異な所だ。
これ、簡単に出来そうで実現はかなり難しかったはず。普通、壁のような2枚の革で出来たバッグといわれたら、厚い革で固く作るだろうし、そうすると当然、重くなる。しかし、このスマホや傘のために両手は空けておきたいし、デジタル機器が入ったバッグは重いというような理由から、手提げバッグの需要が激減している中、大きくて重いブリーフケースを作っても仕方ない。当然、秋田氏のアイデアも、それではない。
「硬いイメージがあるのは、表と裏の胴面の革を割ることなく、1枚革で仕上げたことで壁のようなスッキリとしたイメージを与えているからでしょう。同時に、柔らかなイメージが持たせられたのは、TOP開口部の折り返した丸みを帯びた縁が、やわらかいなシルエットとなっているからだと思います」と、設計を担当したトライオンのスタッフは言う。
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分かりにくいけれど面白いモノたち
ITから文房具まで幅広く活躍するベテランライター、納富廉邦さんが言語化しづらいけど面白いガジェットやサービスを分かりやすく解説します。
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