フェスの“案内AI”、正体は「Acrobat」――大阪・ジャイガで稼働したPDF製の即席チャットbot(3/3 ページ)

5問続けるとログイン画面が現れた

 ブースではスタッフが手順書を用意して操作を手伝うのに対し、PDFスペースは無人の窓口だ。来場者は誰の説明もなしに、スマホの画面と一対一で向き合う。筆者も会場に向かう道中で使ってみた。アクセス方法を尋ねると、シャトルバスの運行時間と料金、直行バスツアー、駐車券の事前購入が必要なことまで、複数の資料に分かれていた情報を交通手段ごとに整理して返してきた。出典の番号から、根拠になったページも確かめられる。

スマホから当日のタイムテーブルを尋ねた回答。項目ごとに付いた番号から根拠の資料をたどれる

 一方で、5問ほど質問を続けたところで、Adobeアカウントでのログインを求める画面に切り替わった。ログインは無料アカウントで済むが、無料で使える回数は明示されておらず、時期によって変わるという。公式サイトの「お問い合わせはこちら」からは説明を挟まずPDFスペースに遷移するため、初めて開いた来場者は、何のサービスか分からないまま質問を打つことになる。

質問を続けると、回答の代わりに現れたログイン要求。「さらに質問してAIを活用したインサイトを取得して、最高の仕事ができます」と表示される

 会場マップの検索にも制約があった。マップ上のブース名がロゴ画像で描かれていたため文字として認識されず、Adobe自身のブースの場所を尋ねても回答が返ってこなかった。

 鈴木氏は、こうした点を認めている。「エクスペリエンスが最適化できていないことは承知している。もう少し早く話ができていれば準備できたかもしれないが、今はあるものを使っている状態で、そこまでカスタマイズができていない」。問い合わせ用途に向けた、Adobe IDなしで使える形についても、今後は考えないといけないと述べた。

 もともとPDFスペースの主な用途は、社内にたまった文書の読み解きだ。フェスの案内サービスに使うのは今回が初めての試みで、ログインを前提にした設計も、元資料を確かめながら読み進める画面構成も、手元の文書に向き合う場面を想定して作られている。来場者が必要な答えだけを受け取る窓口とは、前提が違う。フェスの案内で見えた壁の多くは、想定と違う場所に道具を持ち出したことから生じている。

来年は切り口を分けた運用も

 前田氏とともに取材に応じた同部署の杉山芽生氏は、読み込ませる資料を作り込むところまで手が回らず、現状では使える機能の半分以下しか活用できていないとみる。導入が本番間際だったため、問い合わせがどれだけ減ったかの定量的なデータも取れていない。アクセス数の計測は8月1日にGoogleアナリティクスを入れて始めたところだ。

 PDFスペースは読み込ませる資料を用途ごとに分けられるため、来場者向けだけでなく協賛社向けや飲食出店者向けの案内にも使えると聞いていたが、今回は手が回らなかった。前田氏は来年に向けて、こうした使い分けに加え、スタッフが使う裏方向けの用意も挙げる。弁当の受け取り場所など、現場で繰り返し尋ねられる質問を集約できるためだ。

 寄せられた質問の分析にも取り組みたいとしている。ジャイガでは開催後の反省会で来場者から多かった質問を共有しているが、一覧にはしておらず、その場で解決して終わることが多かった。どんな質問が多いかが蓄積できれば、その回答を事前に用意して精度を高められる。

取材当日の8月1日、SUNステージのゲート前を行き交う来場者。奥は大阪湾

 残る課題は、来場者が迷わず窓口にたどり着き、説明なしでも必要な答えを得られるかどうかだ。資料の作り込みも導線の設計も、ツールの側ではなく使う側に委ねられている。それでも、専任の担当者を置けないフェス運営で、問い合わせの一次受けが本番2週間前の決定から立ち上がった。前田氏はその効果を「かなり助かっている」と話した。

印刷する
SNSでシェア
SpecialPR

この記事の著者

関連記事

こんなメディアも見られています

ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。

メールマガジンを配信中
メールマガジンを配信中

国内外の業界動向、AIやクラウドなどの最新技術、キャリア情報など今知りたい情報をまとめてお届けします。

いますぐご登録

本日の新着記事

アクセスランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

ITmedia NEWS SNS

X @itmedia_newsをフォロー

インフォメーション

ITmediaNEWSをフォロー

あなたにおすすめの記事PR