「死亡事故がゼロの世の中を」──苦節7年、危険な作業をAIで省力化 全国で稼働する「交通誘導AI」の現在地

 工事現場で旗を振り、車を誘導する警備員。その仕事を、AIが代わりに担い始めている。ベクトルグループのイニシャルが9月9日に東京都港区で開催した展示会「AIエキスポ」で、AI交通誘導システム「KB-eye」を開発するKB-eye(山梨県昭和町)の橘田孝一代表取締役に話を聞いた。

KB-eyeの橘田孝一代表取締役

 KB-eyeは、AIカメラで通過車両や周辺の渋滞状況を検知し、最適なタイミングでLED表示板を切り替えて片側交互通行などの誘導を行うシステムだ。規制区間内の停車車両や逆走車両などをAIが常時監視し、異常があればトランシーバーで現場のオペレーターに音声通知する。オペレーターは通知を受けて、離れた安全な場所からリモコンで操作できる仕組みだ。

会場に展示されていたKB-eyeの実機。停止指示をLED表示板に出す
LED表示板の上部に付くAIカメラ。車両や歩行者を検知する

 開発のきっかけは、共同創業者が経営する警備会社の現場で起きた交通死亡事故だったという。人が車道に立って旗を振る方法に限界を感じ、2018年8月に会社を設立。自社で警備業務を請け負って全国の現場に入るなかで、カメラの位置や画角を検証しながら7年かけて開発を進めた。

警備員の死亡事故は24年で28名、60歳以上が62%を占める(出典:KB-eye資料より、以下同)

 これまでに入った現場はのべ450カ所。その経験を反映した現行機が25年に完成した。道路使用許可の取得実績は39都道府県に上り、国の新技術情報データベース(NETIS)への登録は2件。国土交通省の能登復興事務所も採用しており、警察庁も25年12月に公表した「省力化投資促進プラン」で、交通誘導システムを“省力化の柱”として明記したという。その背景には、死亡事故が後を絶たず、58.7万人の警備員のうち60歳以上が62%を占めるという業界の構造がある。

「無人化」ではなく「省人化」

 このシステムによって、警備員が完全にいなくなるわけではない。警察の許可や県の発注仕様が交通誘導員の配置人数を定める現場が多く、「交通誘導警備業務1級・2級」という資格も必要となるためだ。

 そこで、有資格者の警備員を監視員として配置した上で、警備員が立つ持ち場の一部を、AIカメラ付きのLED表示板に置き換える。従来4名で行っていた片側交互通行の現場は、警備員2名とシステム一式で回せるとしている。人の役割は消えるのではなく、車道に立って誘導することから判断・監視へ変わるという整理だ。

7年間の開発の歩み。自社で警備を請け負いながら現場で作り直してきた

 「深刻な誘導員不足の改善、そして死亡事故がゼロの世の中を作れるか」──橘田氏が語るこの目標を支えるのが、検知の精度だ。工事現場に特化した20万キャプチャ超の学習データを使い、発売までの7年間で検知漏れや光の入り方による誤検知といった課題を現場で解消してきた。AIの誤判断による事故はこれまでほぼゼロだという。

山間部から雪道まで、全国の現場での稼働実績を示すスライド

 夜間の運用にも向く。蛍光ベストを着た警備員は夜の景色に同化しがちだが、光るLED表示板の指示は暗闇でも視認しやすい。人間と違って深夜割増もかからない。

工事現場の外へも──祇園祭では38万人の人波を見守る

 このシステムの活躍の場は、工事現場だけではない。祭りや花火大会など、より市民の日常に近い場面でも動き始めている。京都・祇園祭で最も混雑する宵山(よいやま)の時期には、主催者の依頼を受けて警備会社と協力し、雑踏警備の実証実験を実施した。

 約38万人が訪れる会場の各所にカメラを設置し、群衆の移動速度を解析。滞留を放置すれば群衆事故につながりかねないため、危険な兆候をつかむとシステムが自ら判断し、現場を回遊する警備員全員に「〇〇地点で雑踏の密度が上昇しています」と無線で自動伝達する。祭りを楽しむ人たちが気付かないところで、AIが人波を監視し、警備員がその判断に従って動く仕組みだ。

次の誘導相手は「自動運転車」

 さらに進めているのが、自動運転車との連携だ。車線が消え、仮設のラインとコーンで通行帯をつくる工事現場は、自動運転車にとって鬼門だという。現場を単なる障害物として認識してしまうため、片側交互通行で待機した自動運転車は、止まることはできても自律的には進めない。実際、工事現場の規制にうまく対応できなかった似た事例として、26年6月には米Waymoが自動運転タクシー約3900台をリコールしている。

自動運転車との連携構想。VICSセンターと協議中だという

 KB-eyeがこの連携を進めるようになったのは、道路交通情報をカーナビへ配信する中核機関、VICS(道路交通情報通信システム)センターから打診を受けたことがきっかけだったという。国が持つ工事情報は施工会社の申告ベースで、現場を実測した一次情報が存在しない。規制の設計から許可の取得、日々の運用までを担う同社であれば、実測データを持てるという見立てだ。

 構想では、規制帯を3D点群データで実測し、「ここで曲がって」「ここを抜けて」といった誘導情報を各自動運転メーカーのシステムへ直接配信する。連携はまだ協議中の段階。だが実現すれば、工事現場は道路を塞ぐただの障害物から、自らの規制状況をリアルタイムに発信する「情報源」へと変わるかもしれない。

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