分かりにくいけれど面白いモノたち
本物のパンをランプシェードに仕立てたアーティストが新たに手掛ける“おいしい香り”とその仕組み(2/3 ページ)
実物に触ると、まるで陶器のような感触なのに、見た目はパンの瑞々しさが保たれているのも不思議だが面白い。こういう表現ができたから製品化に踏み切ったのだと思うけれど、これをアート作品としてだけでなく、製品として販売しているのがいいのだ。
パンというのは、そんな風に身近な存在であるべきだし、アートとして表現されてしまうと、パンに違う意味がくっついてしまう。それがアートの面白さだし限界。江戸後期の浮世絵が、肉筆作品より版画作品に圧倒的に面白い作品が多いのも、生活用品として作られていたからこそ、というのと似ている。
パンプシェードの面白さは、使っているパンの種類によって、それぞれ別の面白さが生まれること。バケット、クロワッサン、食パン(トースト)など、お馴染のパンなのに、中に照明が入ることで、オブジェとしては別種の個性が生まれている。
まあ、形自体が全然違うのだから当たり前だが、普段「パン」としてひと括りにしているだけに、こんなにも見た目の個性が違うのかとビックリするのだ。味の違いは分かっているのに、意外に形を作品としては見ていないということなのだろう。一点ものの焼き物という意味では、陶磁器と変わらないはずなのに(作り方も似ていないでもない)。
パン自体を加工して硬いランプシェードに仕立てているのだから、当然、その技術は他にも応用がきく。例えば、「NAAAAN TIME」は、ナンに時計ユニットを仕込んだ製品。このアナログの時計ユニットというのは、昔からとても便利なアイテムで、かつて、高校時代の「読書感想画コンクール」で、最優秀作品はこのユニットを仕込んで時計に仕立ててもらえるという特典があったことを思い出す。そのくらい、絵画や木工製品、ペーパークラフトなどに仕込んで時計にした製品はいっぱいある。
ただ、このNAAAAN TIMEが面白いのは、ただ、不定形で平たいナンの形状が時計に向いていたというだけでなく、この形状が、サルバドール・ダリの有名作「柔らかい時計」のような見せ方ができるという発見。製品になってしまえば当たり前のように見えるかもしれないけれど、これが実際に製品になっていて、しかも、元々柔らかいナンが、硬く加工されて、その上で「柔らかい時計」になっているという多重構造の面白さは、アートとしても、雑貨としても、レベルが高い。
また、私が最初に見かけて、「何だろうこれ?」と思った、受注生産のバッグがまた楽しい。パン自体をバッグに仕立てたものや、財布にパンがくっついているようなもの、カットされていないイギリスパンの上部が開く箱形のバッグなど、どの作品も、どこか「分かりやすいイメージ」から逸脱していて、ちょっと変なのに、普段遣いしてもおかしくない形に納まっているのだ。
いや、まあ、見た目的には本物のパンをそのまま持ち歩いているように見えるのだから「変」なんだけど、そのパン自体は生活の中で見慣れたもので、しかも、独立して見ると、とてもキレイな造形なので、うっかり自然に見えてしまうのだ。本物のパンを使っていることが、そんな風にも効いてくるわけで、アイデアだけで終わっていないことの重要さを感じさせてくれる。
何よりビックリしたのが、「クロワッサンキャンドル」だ。これ、一見、普通のアロマキャンドルで、クロワッサンの端っこが、芯カバーになってるくらいしかパンの要素が見当たらない。ところが、香りが、もうクロワッサンそのもの。しかも、いいクロワッサンというか、まともにおいしいクロワッサンの香りがするのだ。香ばしさもバターの香りもしっかりあって、これは香料で出せるものではない。
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分かりにくいけれど面白いモノたち
ITから文房具まで幅広く活躍するベテランライター、納富廉邦さんが言語化しづらいけど面白いガジェットやサービスを分かりやすく解説します。
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