分かりにくいけれど面白いモノたち

本物のパンをランプシェードに仕立てたアーティストが新たに手掛ける“おいしい香り”とその仕組み(3/3 ページ)

 なんと、この香り、クロワッサンから直接香り成分を蒸留して取り出したのだという。化学的な部分は人に教えてもらったりしながら、独自の方法で香りを抽出、キャンドルに封じ込めることに成功している。ここまで来たら、もう化学の実験だろう。ランプシェードや時計、バッグではパンの見た目を、生のまま製品化することに成功し、今度は、香りをそのまま部屋の中に持ち込める製品を作り上げたわけだ。

クロワッサンから香り成分を抽出するための装置

 この香りは、体験しないと分からないけれど、パンプシェードの他の製品を知っている人なら、そのリアルさは想像がつく。そういう形でブランドが作られている。

 その構造は、企業やメーカーのブランドというより、作品自体でコンセプトを伝え、信用を重ねていくアーティストのスタイルだ。その意味で、EXTRA PREVIEWのような展示会が、個展のように機能する。そこに、製品と作品の境界はほとんどあってないようなものだ。

 それでいて、パンの形のランプシェードや、ナンの形の時計は、まるで普通の雑貨のようにも見える。実物を手にすると全く違うことは分かるし、敏感な人なら写真からでも、その違いは伝わるだろう。そのくらい「モノ」としての存在感がある。その上で実用品なのだから、もはやアート作品よりも価値があるんじゃないかと、肉筆浮世絵より錦絵版画の方に価値を置いてしまう私には思えるのだ。

 しかも、これがフードロスにも貢献するだけでなく、捨てるはずのパンを買い取ってくれる先があるのだから、町のパン屋の持続にも貢献している。そして、これがパン屋さんが作った造形だという意識がMoritaさんにあるからなのか、製品価格も、この技術とアイデアと完成度からするとかなり安い。通販サイトを見ると、多くの製品が再入荷待ちになっているのだけれど、それも無理はないと思う。

PAMPSHADEの製品は、この神戸在住のアーティスト、Yukiko Moritaさんによるもの

 食品サンプルやリアルなスクイーズなどにもパンをモチーフにした製品はあって、それぞれに魅力的だけれど、本物を目指した人工物と、人工物のように使える本物と、そのベクトルは逆方向。どちらが上とか下とかではなく、これは「マテリアル」にどう向き合うかという違いで、無機物を有機物のように見せることの面白さと、有機物を無機物化することで、有機物としての良さを固定する面白さは、全く別の面白さだと私は思っている。

 ただ、どちらにしても、それは職人技と芸術家気質が合わさって生まれたもの。今や、ディスプレイの中のものは、AIがどんどん作ってくれるだけに、ディスプレイの外を意識した製品がどんどん面白くなっている。そういう時代の最先端にあるのが、案外、パンプシェードのような存在なのではないかと、かなり本気で思っている。

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ITから文房具まで幅広く活躍するベテランライター、納富廉邦さんが言語化しづらいけど面白いガジェットやサービスを分かりやすく解説します。

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