危機管理広報のプロが分析

涙に叱責に持論……GMO熊谷代表の謝罪会見、どこがまずかった? 危機管理広報のプロが分析(5/5 ページ)

「つまらない謝罪会見」がベスト 経営者に必要な「目立たないスキル」

 私は、「つまらない謝罪会見が、ベストな謝罪会見」だと考えています。経営トップが普通に謝罪し、確認できている事実を粛々と説明し、経営者としての説明責任を果たす。感情的になることもなく、記者の質問にも淡々と丁寧に答える。これといった撮れ高や名言も提供しない。実につまらない会見です。

 そうした会見は、報道機関にとって映像的に目立つ場面が少ないかもしれません。しかし、だからこそ余計な批判や報道材料を生み出さず、本来の問題に関する報道にとどめやすくなるのです。

 ここでいう「つまらない」とは、説明を控えたり、記者の質問を避けたりすることではありません。必要な情報は隠すことなく説明する。その一方で、名言を残したり、社員を叱責したりするなど、本来の問題とは無関係な話題を増やさない。実は、こうした対応を徹底することが、危機管理広報では非常に重要なのです。

 インターネット黎明(れいめい)期から事業を成長させてきた創業経営者の中には、自ら積極的にメディアに登場したり、SNSで発信したりして、独自の経営哲学や個性を伝えることで、企業の知名度やブランド価値を高めてきた人も少なくありません。ある意味で、「目立ってなんぼ」という時代を生き抜いてきた経営者たちです。そうした発信力や自己演出の能力は、平時の企業経営では大きな武器になります。しかし、危機管理の場面では、その成功体験が必ずしもプラスに働くとは限りません。

 謝罪会見で求められるのは、経営トップ自身の存在感を示すことではなく、被害者や社会が知りたいことに丁寧に答えることです。時には、自分の個性や持論を抑え、地味であっても淡々と説明責任を果たすことが求められます。経営者には「目立つスキル」だけでなく、「目立たないスキル」も必要なのです。今回の会見は、その2つの能力を適切に使い分けることの難しさを、改めて考えさせるものでした。

 過去には、KDDIの大規模通信障害や東京証券取引所のシステム障害など、経営トップの説明力や危機対応への姿勢が高く評価された会見もありました。こうした事例では、危機対応を通じて、企業や経営トップへの信頼が高まった側面もあったと考えられます。

 そして、適切に運営された謝罪会見ほど、余計な話題を残さず、社会の関心は次第に本来の問題やその後の対応へと移っていきます。一方、失敗した会見は、経営トップの失言や本来の問題とは無関係な言動がいつまでも記憶され、その企業のイメージにまで長期間にわたり影響を及ぼすことがあります。

誠意は「宣言」ではなく「行動」で伝わる

 もう1つ強調したいことがあります。誠意や真摯(しんし)さは、自分で宣言するものではなく、相手が受け止めるものです。熊谷代表は今回の会見で、「誠実」「真摯」といった言葉を繰り返し使われていました。しかし、そうした姿勢は、言葉で強調するだけでは伝わりません。

 記者の質問を最後まで聞くこと。質問に真正面から答えること。追加質問にも可能な限り対応すること。そして、被害者への具体的な対応を示すこと。そうした一つ一つの行動によって、初めて誠意や誠実さは伝わるものだと思います。

 一方で、今回のGMOインターネットグループが、経営トップ自ら記者会見に臨み、長時間にわたって質問を受けたことには、改めて大きな意義があったと考えています。

 メディア対応というものは、一度の経験で完成するものではありません。日頃から記者の取材を受け、時には厳しい質問にも向き合いながら、記者が何を知りたいのか、自分の発言がどのように報道されるのか、といったメディアの特性への理解を深めていくものです。

 記者会見だけでなく、日常的な取材対応やメディア向け勉強会などを通じて、こうした経験を積み重ねることも重要でしょう。熊谷代表は今回、100年続く企業や企業の永続性についても言及していました。企業が長く存続していくためには、優れた製品やサービスを提供するだけでなく、不意に問題が発生した際に、社会と適切に向き合う力や、危機への耐性も欠かせません。

 今回の会見には改善すべき点が多くありましたが、経営トップ自らが説明責任を果たそうとしたことは評価されるべきです。この経験を一つの糧として、今後も報道機関との対話を重ね、時には厳しい質問にも正面から向き合いながら、より適切なメディア対応ができる企業になっていただきたいと思います。そうしたスキルやノウハウの蓄積も、企業や事業のサステナビリティにつながっていくものと確信しています。

【追記:2026年11月5日午後2時40分更新 筆者の立場について本文に追記しました。】

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