危機管理広報のプロが分析

涙に叱責に持論……GMO熊谷代表の謝罪会見、どこがまずかった? 危機管理広報のプロが分析(3/5 ページ)

謝罪会見が、経営トップの持論発表会になってしまった

 今回の会見でもう1つ気になったのは、謝罪や事案の説明に続いて、経営トップ自身の持論を発表する時間を設けた構成です。会見は3部構成で、第1部では情報漏えい問題の経緯や対応について説明し、第2部では熊谷代表が経営理念やインターネット産業の課題、AIの発展などについて持論を展開しました。その後、第3部として記者との質疑応答が行われました。

 経営方針発表会や新製品発表会であれば、複数のテーマを設けて企業側のメッセージを発信する構成も有効ですが、今回は被害者が存在し、企業として説明責任を果たすための謝罪会見です。そこで優先すべきなのは、企業側が伝えたいことではなく、被害者や社会が知りたいことです。

 熊谷代表は質疑応答で、第1部の謝罪と第2部の問題提起を切り分けて考えてほしいという趣旨の説明をされましたが、会見の主催者が内容を区切ったからといって、記者がその区分に従って受け止めるわけではありません。

 また、第2部で特に気になったのは、サイバー犯罪の高度化やAIの悪用についての説明です。これらは社会全体で考えるべき重要な問題ですが、今回の不正アクセスにAIが使われたという因果関係が明らかになっていない段階で、AIによる脅威を強調することには疑問が残ります。実際、熊谷代表は質疑応答で、今回の攻撃にAIが使われた証拠はないと説明しています。たとえ本人に責任転嫁の意図がなかったとしても、説明を受ける側には、「AIの発展によって被害を防ぐことが難しくなった」という弁明に聞こえてしまう可能性があります。

 特に今回は、グループ内のセキュリティ専門家から過去に課題を指摘されながら、十分な対策につなげられなかったことも説明されています。そうであれば、まず優先すべきなのは、外部環境の変化よりも、自社の管理体制や意思決定のどこに問題があったのかを説明することでしょう。

 経営理念や業界全体への問題提起は、事態が一定程度収束した後に、別途メディア向けの勉強会や経営方針発表会などで伝えればよいのです。どうしても今回の会見で伝えたいのであれば、必要な説明を尽くしたうえで、今後の改善に向けた決意として簡潔に添える程度が適切だったと思います。まず相手が知りたいことに答え、そのうえで自分が伝えたいことを語る必要があるのですが、今回の会見では、この順番が逆転してしまったように感じました。

 実際、会見翌日の新聞報道では、被害者や利用者の声を取り上げ、説明内容への疑問や不満を伝える記事が目立ちました。経営トップが約3時間半にわたって説明したにもかかわらず、なお被害者の疑問や不満が関連報道で大きな割合を占めたことは、少なくとも信頼回復や企業イメージの改善という面では、会見の効果が限定的だったことを示しているように思います。

 ここには、メディアの習性も関係しているのではないでしょうか。記者が会見で十分な回答を得られなかったと感じれば、その疑問を別の取材先に向けることがあります。被害者や利用者に取材し、企業の説明に対する受け止めを確認することも、その一つです。また、今回の関連報道では、第2部で語られた経営理念や業界への問題提起が取り上げられることはほとんどありませんでした。

 日本テレビの報道では、被害者の声に加えて、経済部長自らがGMOの会見への不満を述べるという、珍しいニュース構成も見られました。こうした報道からも、企業側の説明と、報道機関が求めていた情報との間に、大きな隔たりがあったことがうかがえます。

 経営トップが多くを語ったとしても、記者や社会が知りたいことに十分に答えられていなければ、説明に費やした時間に見合う成果は得られません。むしろ、企業側が伝えたいことを優先した結果、記者のフラストレーションを高め、説明不足に対する疑問を強めてしまうこともあります。謝罪会見は、経営トップが思いの丈を語る場所ではありません。何が起きたのか。なぜ防げなかったのか。被害者にどう対応するのか。再発防止に向けて何をするのか。そして、経営トップはどのように責任を取るのか。こうした疑問に、具体的に答えることがまず求められます。

印刷する
SNSでシェア
SpecialPR

この記事の著者

関連記事

こんなメディアも見られています

ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。

メールマガジンを配信中
メールマガジンを配信中

国内外の業界動向、AIやクラウドなどの最新技術、キャリア情報など今知りたい情報をまとめてお届けします。

いますぐご登録

本日の新着記事

アクセスランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

ITmedia NEWS SNS

X @itmedia_newsをフォロー

インフォメーション

ITmediaNEWSをフォロー

あなたにおすすめの記事PR