危機管理広報のプロが分析
涙に叱責に持論……GMO熊谷代表の謝罪会見、どこがまずかった? 危機管理広報のプロが分析(4/5 ページ)
経営トップが自ら質疑応答を仕切る危うさ
今回の会見で、もう1つ特徴的だったのは、熊谷代表が自ら記者を指名し、回答者を決め、質問数の制限についても発言していたことです。経営トップが積極的に記者の質問に答えようとする姿勢は評価できます。しかし、謝罪会見において、登壇者自身が質疑応答の進行を管理することには、大きなリスクがあります。
そもそも、司会者と登壇者では役割が異なります。司会者は、挙手している記者を公平に指名し、所属と氏名を確認し、長すぎる質問や不規則な発言を整理します。質問が殺到した場合には、予定している会見時間との調整を行い、必要に応じて質疑応答を終了させる判断も担います。時には記者に対して毅然(きぜん)とした対応を取ることも、司会者の重要な役割です。一方、経営トップは説明責任を果たす立場にあります。
例えば、司会者が「お一人一問でお願いします」と案内するのと、謝罪する経営トップが同じことを言うのでは、受け止められ方がまったく異なります。たとえ合理的な理由があっても、経営トップ自身が質問を制限すれば、「答えたくない質問を避けているのではないか」「謝罪する立場なのに上から目線ではないか」といった印象を与えかねません。
今回、会場の記者からの仮定の質問に対して、熊谷代表が「もし、のご質問にはちょっと回答するのは厳しいです」と回答を退ける場面もありました。確かに、仮定の質問に答えることが難しい場合はありますが、今回は謝罪会見の場です。誠意をより強く示すためにも、質問の意図をくみ取り、答えられる範囲で説明しようとする姿勢を見せることが、会見の受け止められ方を左右する重要な要素です。
謝罪する立場の経営トップが、記者に質問の仕方まで指示してしまう。さらに、質問の内容によっては、回答を避けているようにも映る。これでは、立場が逆転しているようにも見えます。むしろ、私が会見を運営する立場であれば、司会者が質問を制限するような場面でも、経営トップから「大丈夫です。今のご質問にも回答させていただきます」と申し出られるような役割分担を、事前に整えておくと思います。そうすることで、厳しい質問にも向き合い、できる限り答えようとする経営トップの誠実な姿勢が自然に伝わります。
今回の会見でも、広報担当者が適切にフォローしている場面は見られました。そうした経験豊富な広報担当者に進行を任せ、熊谷代表は説明と回答に集中した方が、会見全体としても円滑に進んだのではないでしょうか。
危機発生時は「喪に服す」状態に
今回の事案では、GMOインターネットグループが公式発表を通じて継続的に情報を開示してきた一方で、熊谷代表個人のSNS発信が新たな批判を招き、会見で謝罪することになりました。本来の情報漏えい事案とは別に、新たな謝罪事項を生み出してしまったわけです。私は、不祥事や重大な事故が発生した企業は、ある意味で「喪に服すような状態」に入ると考えています。
もちろん、情報発信そのものを止めるという意味ではなく、被害者や社会の不安を取り除くために必要な情報は、迅速かつ継続的に開示する必要があります。その一方で、華やかなプロモーションや、経営トップ個人の自由な発信などは、状況に応じて自粛することが求められます。不祥事が発生した際に、企業がテレビCMや広告活動を一時的に見直すことがありますが、基本的にはそれと同じ考え方です。
今回のように被害者が存在し、事実関係の調査も続いている段階では、経営トップ個人の判断による自由な発信は、原則として控えるべきでしょう。どうしてもSNSを活用するのであれば、会社の公式発表へのリンクを共有する程度にとどめ、余計なコメントを加えない方がよいと思います。
また、発信力の強い経営トップがいる企業ほど、広報部門の役割は重要になります。経営トップの言葉を全て事前に管理することは現実的には難しいかもしれませんが、危機発生時の発信ルールを平時から定め、経営トップ自身にもその必要性を理解してもらうことは不可欠です。
特に創業経営者の場合、自らの判断力や発信力によって会社を成長させてきたという自負もあるでしょう。しかし、企業経営における成功と、危機管理広報に精通していることは別の能力です。
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