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“翻訳者並み”翻訳ソフトに“癒し系”仮想旅行ソフト――IPAX

» 2004年01月21日 21時22分 公開
[西坂真人,ITmedia]

 情報処理推進機構(旧:情報処理振興事業協会、IPA)は1月21日、「未踏ソフトウェア創造事業」などIPAが進めるソフトウェア開発事業の成果を紹介する「IPAX Winter 2004」を開催。東京国際フォーラムを会場にして、ソフトウェア開発者による開発成果物の展示やプレゼンテーションなどが行われた。

 今、話題となっている「SoftEther」も未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)の支援を受けているなど、ソフトウェア開発振興を狙ったIPAのこの取り組みは、独創的なソフトウェア開発を行っている研究者にとっての“あしながおじさん”的役割を果たしている。その開発成果が集まったIPAXは、ダイヤモンドの原石のようなプログラマーやクリエーターたちに会うことができる。

プロの翻訳者レベルの自然な訳文を生成

 The Mixer object gives you direct control over the volume.

 上の英文を従来型の翻訳ソフトでは「Mixerオブジェクトはボリュームに関して直接的な制御を与える」と訳されるケースが多い。意味は分かるのだが、いかにも“機械翻訳”といった感じのいわゆる「直訳」になってしまっている。

 2002年度と2003年度の2年連続で未踏ソフトウェア創造事業で選ばれた「自然な訳文を生成する翻訳システム」では、上の英文を「Mixerオブジェクトにより、ボリュームを直接制御できる」と自然な日本語に訳すことができる。

 開発者の武舎広幸氏は「この英文のポイントは“direct”の部分。対訳辞書を使った従来型だと“直接的”と訳してしまうが、人間(翻訳者)なら言語内部知識を活用して形容詞だけでなく副詞や名刺などあらゆる品詞で考える。開発した翻訳システムは、従来の対訳辞書のほかに言語内部知識の役目を担うターゲット言語辞書やソース言語辞書を活用することで、自由に品詞の変換が行え、任意の範囲を見渡して必要な変形操作を行うことができる」と、自然な訳文が生成できる仕組みを説明する。

mn_ipax1.jpg 武舎広幸氏が開発した翻訳ソフトのシステム図

 翻訳者である上に翻訳ソフトの開発も20年間手がけ、さらに翻訳教育用テキストの執筆経験もある武舎氏だからこそ開発できたといってもいいこの翻訳システム。「われわれ翻訳者は、日本語をこねくりまわして自然な訳を導き出していく。こうした翻訳方法の過程をシステムとして作り上げるということは、長年翻訳作業に携わった経験のないエンジニア/プログラマには開発できない」(武舎氏)

 辞書データと文法データ以外は対象言語に依存しない設計になっているため、英語/日本語だけでなく韓国語や中国語などにも柔軟に対応。翻訳エンジンは独立したライブラリになっているので、さまざまなGUI環境に接続できるほか、移植性が高いためLinux/Windows/Mac OSなどマルチプラットフォームで動作することが可能だ。会場ではPowerBookやLinuxザウルス「SLシリーズ」を使った翻訳のデモンストレーションが行われていた。

mn_ipax2.jpg 翻訳システムはLinuxザウルスなどPDAにも搭載可能

 「今年中にPDA向けにトラベル会話程度の翻訳システムを商品化したい。実際にはハードウェアメーカーの協力も必要となるだろう」(武舎氏)

癒し系仮想旅行ソフト「旅っ中」

 業務へのPC活用が当たり前となった現在、一日の大半をPCの前で過ごすIT戦士も多いことだろう。朝9時から夕方4時まで1時間の昼休みを挟んで計6時間もかかってしまった本日の業務を振り返り「ああ、東京駅から新幹線に乗っていたら、今ごろ博多に着いているころだなあ」と遠い目をしてため息をついている列車旅行好きなあなたにピッタリのソフトが「旅っ中」だ。

 「電車でGO!」のように、列車の運転士気分を味わえるシミュレーションソフトはあるが、「旅っ中」は乗客側の立場になってのんびりと列車の仮想旅行を楽しむことができるPC用ソフトだ。実際の路線の車窓ビデオを、列車の運行に合わせてPC画面にシミュレートすることができる。スクリーンセーバーとして動作し、ワンクリックでバックグランドに隠れるためPC業務の支障になることはない。

mn_ipax3.jpg PCモニターが車窓に

 「旅をしたくてもできないユーザー向けに“癒し”を提供するソフト。時刻表通りに運行するため、PCで業務をしながらでも実際に今動いている列車に乗車している感覚を楽しめる。また、PCの電源を切っても時刻表と乗車データから経過した時間分の列車進行をシミュレートするため、帰りがけに寝台車に乗車すると設定しておけば、次の日の朝には青森に到着しているといったことも可能」(開発者の遠藤清美氏)

 会場のデモンストレーションでは、東海道本線普通列車の東京―熱海間の車窓をシミュレートした試作版を紹介。列車の窓を閉めると現れるインフォメーション画面時でも、バックで景色が半透明になって動いているという凝った作りになっている。

mn_ipax4.jpg

 「窓ガラスに息を吹きかけて曇らして絵を書いてみたり、ローカル線乗車時には向かいの席にその地元のおばあちゃんが座って方言で離しかけてくるといったイベントを盛り込むことも可能。個人で好きな路線を楽しむといった使い方のほか、例えば豪華寝台特急で行く北海道旅行が当たるクイズの外れ賞として実際の当選者が乗車する路線をシミュレートした『旅っ中』をプレゼントするといった景品としての利用や、『わが町ではこんな車窓が楽しめる』といった地域振興に活用するといったオリジナル版の展開も考えられる。数社から商品化の話もあったが、販売の予定は今のところない」(遠藤氏)

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