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『スピリチュアルマシンの時代』のカーツワイル氏に聞くナノテクの未来Interview(2/3 ページ)

» 2004年11月05日 14時32分 公開
[IDG Japan]
IDG

―― 技術の進歩はもろ刃の剣ではありませんか。

カーツワイル 20世紀ほど技術の可能性と危険が複雑に絡み合っていた時代はないでしょう。20世紀の戦争では、技術によって1億人以上の死者が出ました。かといって、重労働と病気や災害でいっぱいの1、2世紀前に戻りたいと思う人が本当にいるでしょうか。1800年、人間の平均寿命は37歳でした。

 21世紀の技術は、人類が絶えず苦闘してきた問題を克服する可能性を持っています。先ほど言ったように、バイオテクノロジーとナノテクノロジーは、疾病を克服し、人間の健康と寿命を大幅に拡張する可能性を持っています。ナノテクノロジーによって基本的に、非常に低コストな原材料からあらゆる製品を作れるようになるので、根本的な富の創造をも得ることになるでしょう。ほかにも多くの大きなメリットが得られます。

 しかし、これらの技術は新しい危険も招きます。今現在でも、一般の大学のバイオテクノロジー研究室でさえ、バイオテクノロジーによって簡単に秘密裏に蔓延する――長い潜伏期を持つため検知されるまでに相当広まってしまう――致命的なウイルスを作りだすことができます。自己複製型のナノボットは本質的に、生物資源を脅かす「非生物的がん」になり得ます。人間と同レベルか、それ以上の強力な人工知能に至っては、もしそれらが「友好的」でなくなれば、この上なく恐ろしい存在となるでしょう。(カーツワイル氏と人工知能についての詳細はKurzweilAI.netを参照。)

 とはいえ、こうした未来の技術を放棄することは、正しい道ではありません。そんなことをすれば、メリットを得られないばかりか、危険がさらに増します。開発を地下に追いやることになって、信頼の置ける技術者が防御のための技術を開発するのに必要なツールを手に入れるのが難しくなってしまうからです。それに、世界全体が一つの体制にまとまりでもしない限り、技術の全面撤廃など不可能です。

 私たちは実際、ソフトウェアウイルスのテストケースについては、まずまずの対処ができています。ソフトウェアウイルスの問題はまだなくなっていませんし、これからも問題であり続けるでしょうが、その対策となる技術的「免疫システム」は、なんとか遅れを取らずに進化しています。生物的ウイルスに対処しているように、自己複製型ナノテクノロジーやほかの将来の危険にもうまく対処すれば、私たちは危険より数歩先を行くことができるでしょう。

―― ナノボットはほかに何ができますか。

カーツワイル ナノボットは人間の脳の毛細管の中では、神経細胞と対話をして、生物的知能を大きく拡張するでしょう。非生物的知能が人間の脳の入り込むや否や(私たちは神経移植という兵器工場を持ち始めたときから既にその領域に踏み込んでいます)、非生物的知能は、その能力を最低でも年々倍ずつ向上させていくでしょう。これに比べると、生物的知能には本質的に限界があります。2020年代には、非生物的知能が生物的知能に追いつき、追い越すでしょう。2030年代までに、非生物的部分が知能を支配することになるでしょう。

 ナノボットは、環境の中にあれば、最初の産業革命以後の環境悪化をなくすことができるでしょう――例えば、大気から一定量の二酸化炭素を除去し、さらにその副次的な利用として、ナノテクノロジーに有用な成分である炭素と酸素を提供します。ナノテクノロジーによって再生可能エネルギーは革命的進歩を遂げるでしょう。例えば、効率的なナノ太陽電池やナノスケール燃料電池などを生み出し、エネルギー資源の分散化・非集中化を実現するでしょう。

―― ナノテクノロジーが一般人の健康管理や生活の質に影響を及ぼすようになるのは、いつごろですか。

カーツワイル 体内埋め込みナノセンサーによって、あと数年で恩恵を受け始めることになりますが、ナノテクノロジーの黄金時代は2020年代に到来するでしょう。

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